フットルースライフ 第15話 小さなダンシングクイーン(6)大切な写真
この物語は、私と相棒のAI編集者ユキちゃんが、協力して書いた作品です。
ちょっとベタで懐かしく、それでいて心が温かくなるようなお話を目指しました。
最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
ジャックが一人でスタジオの片づけをしていると、入口のドアがノックされた。
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは、園長先生だった。
「こんにちは、ジャック。今、少しお時間いいかしら?」
「園長先生? 珍しいですね。どうぞ」
ジャックは椅子を勧めた。
園長先生は腰を下ろすと、少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「今日は、ユキのことでお礼を言いに来たの」
「礼?」
「ええ。あの子、毎日一生懸命練習しているわ。以前よりずっと表情も明るくなったし、自分から音楽に向き合うようになったの。あなたのおかげね」
ジャックは、照れくさそうに頭をかいた。
「俺は、ちょっとした助言をしているだけですよ。あいつが頑張っているんです」
「そうね。あの子は本当によく頑張っているわ」
園長先生はうなずいた。
「でも、あの子の中にあるものを見つけてくれたのは、あなたなのかもしれないわね」
「……どうでしょうね」
ジャックは視線をそらした。
しばらく、穏やかな沈黙が流れた。
やがて園長先生が、懐かしそうに口を開いた。
「そういえば、もう十二年になるのね。第一回のベイサイド・ダンスコンテスト」
ジャックの手が止まった。
「あのときのあなたとジェミニ、本当に素晴らしかったわ」
園長先生の目が、遠い日の光景を思い出すように細められた。
「二人がステージに立った瞬間、会場の空気が変わったのを覚えているわ。息もぴったりで、踊ることが楽しくて仕方ないっていう顔をしていた」
「……昔の話ですよ」
ジャックは、そっけなく答えた。
「そうね。でも、私にとっては忘れられない思い出なの」
園長先生は少し間を置いてから、ふと思い出したように尋ねた。
「ねえ、ジャック。あのときの写真、覚えている?」
「写真……?」
「ええ。優勝トロフィーを二人で掲げて、笑っている写真よ。あなた、とても大切にしていたでしょう?」
ジャックは答えなかった。
「いつも手元に置いていたから、今はどうしているのかと思って。あの写真、どこにいったの?」
沈黙。
ジャックは、床に置かれた道具へ目を落とした。
何かを言おうとして、やめた。
園長先生は、その横顔を静かに見つめた。
そして、それ以上は尋ねなかった。
写真がどこにあるのか。
本当に知りたかったのは、そんなことではなかったのかもしれない。
かつて、誰よりも息の合った相棒と笑い合っていた青年が、今は一人で踊ることさえ忘れかけていた。
そのことが、園長先生には悲しかった。
「……ごめんなさいね。昔の話ばかりしてしまって」
「いえ……」
ジャックは顔を上げた。
「園長先生こそ、ユキのこと、ありがとう。俺もユキも、今ダンスを頑張れるのは……」
ジャックは一度、言葉を切った。
「いつも、あなたが傍にいて、ずっと見守ってくれたから」
園長先生は、黙ってジャックを見つめた。
「なんか俺、少しずつ分かってきた気がするんだ」
ジャックは、どこか照れくさそうに笑った。
「意地を張っていた自分のことや……あいつのことも」
それから、優しく微笑んだ。
「ありがとう、ジャック」園長先生は立ち上がり、ドアへ向かった。
出ていく直前、もう一度だけ振り返った。「ジャック。ユキをよろしくね」
「ああ。任せてください」
今度の返事には、迷いがなかった。
園長先生は小さくうなずき、スタジオを後にした。
ドアが閉まる。
ジャックは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
十二年前のステージ。
眩しい照明。
鳴り響く音楽。
そして、隣で笑っていた相棒。
記憶の中の二人は、今でもあの日のままだった。
ジャックはゆっくりと目を閉じた。
やがて、誰もいないスタジオに、彼の小さなため息だけが残った。
*
園長先生がユキの居る、ダンススタジオに着くと、中から音楽が聞こえてきた。
そして、ガラス越しにのぞくと、一人で踊っていた。
まだぎこちない動きもある。
それでも、音楽に合わせて身体を動かすユキの顔には、以前にはなかった笑顔があった。
曲が終わる。
「はあ……。うーん、今のところ、ちょっと違うかな」
ユキは首をかしげながら、もう一度音楽をかけようとした。
そのとき、入口に立つ園長先生に気づいた。
「あっ、園長先生!」
ユキは駆け寄った。
「どうしたの? ジャック先生のところに行ってたんじゃないの?」
「ええ。ちょっとお話をしてきたのよ」
「ジャック先生、元気だった?」
「ええ、元気だったわ」
園長先生は、ユキの顔を見つめた。
「ユキ。練習、頑張っているのね」
「うん! でも、まだまだなんだ。もっと上手になりたいの」
ユキは少し恥ずかしそうに笑った。
「そっか。じゃあ、もう少し頑張らなくちゃね」
「うん!」
元気よく答えるユキを見て、園長先生は微笑んだ。
そして、ふとジャックの横顔が心に浮かんだ。
その瞬間、確信した。
この子達は、もう大丈夫だと。
ユキは、自分だけのダンスを探している。
その姿が、かつてのジャックに何かを思い出させているのかもしれない。
誰かに教えることで、もう一度、自分自身を見つけようとしているのかもしれない。
園長先生は、ユキの肩にそっと手を置いた。
「ユキ。楽しんで踊りなさいね」
「うん! 私、頑張る!」
音楽が再び流れ始めた。
ユキは小さな身体をいっぱいに使って、踊り始めた。
園長先生は、その姿を静かに見守っていた。
いつか、あの子が大きなステージに立つ日が来るだろう。
そのとき、ジャックはどんな顔をするのだろう。
そして――。
もう一度、あの二人が並んで笑い合う日は来るのだろうか。
園長先生は、答えの出ない問いを胸にしまい、ユキの踊りを見つめ続けた。
つづく。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
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