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仕立屋うさぎのシルクさん

作者: ROSE
掲載日:2026/06/13

 私の名前はシルク。パリで一番お洒落な女よ。

 種族はうさぎ。服作りが私のお仕事。

 私のお店にはいろんなお客様が来てくれる。一番の常連さんは、店長さん。虎猫のオスよ。とってもお洒落でシャツとニットが大好きなの。

 そんな店長さんはちょっと変わった猫。だって人間さんのお友達が二人もいるんだもの。まあ、そんなことになると私のお店ってとっても特別よね。

 当然よ。パリの女ですもの。


「……いや、浅草だろ……」

 目の前で人間のオスが失礼なことを言う。

 そう言えば、前に来てくれた人間さん、さきちゃんも同じようなことを言っていた。

「ぱりよ! ぱり! おしゃれなばしょはそうよぶんでしょ?」

「いや、ちがう」

 呆れたような目で私を見るのは随分とかわいい毛の色をした人間のオス。結構いい着物を着ている。

「まあ、なんでもいい。いくつか替えが欲しい。適当に用意してくれ」

「てきとうになんていわれたって、にんげんさんのふくはじょうびしていないの。さいすんからはじまるわ」

 すぐ着せられそうなものはさきちゃんのものしか用意していない。

「ちょうとっきゅうでつくってもみっかはかかるわ。うちのはりこはしゅうきゅうみっかなのよ」

 ろうどうかんきょうというのが悪いと従業員が不満を抱くって前に聞いたことがあるもの。少なくとも週に一日は休みが必要だっていうなら、三日もあれば頑張って働いてくれるんじゃない? 実際うちの針子は腕がいいのよ。縫い目が綺麗なの。私のデザインを活かしてくれるわ。

「……週休三日が普通なのか? 早希ちゃんにもそのくらい休暇を……いや、彼女は休日でも働きそうだな……」

 ブツブツとひとりで喋る人間のオス。

「てんちょうさんのところはていきゅうびがあるじゃない? てんちょうさんのきぶんできまる」

 気まぐれでお休みだからおみせに行くときは運なのよね。

 あの店長さん、商売やる気があるのかないのか。稼ぐときはしっかり稼ぐのに休むときは結構休んだりするから本当に読めない。

 さきちゃんが働くようになってからは開店している日の方が多くなったような気がするけれど、気がするだけかも。

「さきちゃんのためにかわいいのたくさんつくっておいたのに、さきちゃんあんまりじぶんのものをかいにきてくれないのよね」

 こないだは店長さんのシャツとニットを受け取ったついでに探偵さんに帽子のプレゼントを注文してくれたけれど、自分の服は買わないのよあの子。

「若い子は気難しいから……いや、彼女の場合は猫を優先して自分が疎かになるタイプか」

 人間のオスはそんなことを言って店内を見渡す。

 そう。丁度さきちゃんの為に作った着物を展示している辺りを。

「中々いい趣味じゃないか。これと……これとこれ。あと襟巻がいくつかあった方がいいな。草履も見せてくれ」

 あら、買い物が豪快なお客さん?

 勿論大歓迎よ。

「はいはーい! にんげんさんのぞうりありったけもってきてー!」

 奧の針子たちに声をかければどたばたと騒がしい音を立てる。また雪崩を起こしたのね。在庫はもっとしっかり整理しないと。

 襟巻をいくつか棚から取ってお客さんに見せていると、針子たちが箱を背負って入ってくる。

「大丈夫か?」

 お客が針子が背負っていた箱を持ち上げる。

「だいじょうぶです。なれてますから」

 針子が驚いたように答える。確かにこんなお客は珍しいものね。

「……うさぎの店で栗鼠が働いているのか?」

「うちのはりこはみんなりすよ」

 小さい方が細かい作業をやりやすいのよ。たぶん。

「とってもうでがいいのよ」

「そ、そうか……」

 お客は納得がいかないという様子を見せている。

 けれども、買う物はどんどん決めてくれる。太っ腹!

「あとは冬物もいくつか注文していこう」

「あら? おきゃくさんのばしょはふゆなの?」

「は?」

 あらあら、これはきっとこっちの世界のことを理解していないのね。

 人間ってみんなそう。たぶんここで生まれなかった子だからね。

「このぱりもそうだけど、みんなじぶんのすきなきせつのままなの。だからおきゃくさんのばしょがふゆでないのならふゆものをよういするひつようはないわ。まあ、ふゆにでかけるならはなしはべつだけど」

 理解出来ないという顔をしている。

 そうね。

 私のパリはずっと春。

 春って素敵な色の季節じゃない? 好きなのよ。

「……よくわからないが……これから寒くなりそうな季節が……もう二月は続いているな」

 真面目そうな顔をしたお客は理解に苦しんでいる様子。

 それはそれでいいわ。

 少しずつ慣れていくしかないもの。

「今日はこれとこれと……ここからここまで。あとは草履をそのふたつと……襟巻はいい感じに選んでくれ」

「任せて。さきちゃんにぴったりなの選んであげる」

 

 それから人間のお客さんは太っ腹にも指定したものを全部買って自分の着物を数点注文して帰って行った。

 先払いで全部配達。

 いいお客さんだわ。

 毛の長いお客さんだから、さぁびすの簪をもう一本さぁびすしてあげようかしら。

 個性的な毛の色だから個性的なのを選んであげないと。

 あと、私のお店は浅草じゃなくてパリですから!

 お手紙も入れておきましょう。


 ぱりのおんなよりあいをこめて。 しるく

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