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雨の日、春の日

作者: ニワトリ
掲載日:2026/04/06


桜の花びらが舞う校庭。卒業式の朝、僕はまさかの大雨に見舞われた。


「やっぱり俺、雨男だったのか…!」


友達が叫ぶ。帽子は飛び、ネクタイはぐちゃぐちゃ、スーツもびしょ濡れ。


その様子を見て、もう一人の友達が無邪気に笑った。


「おい、見ろよ! ○○、完全に漫画のキャラみたいになってるぞ!」


「やめろ! 恥ずかしいだろ!」


僕たちは笑いながら、ずぶ濡れのまま校庭に並ぶ。

まるでギャグ漫画の一コマのようで、思わず肩を震わせた。


でも、式が進むにつれ、笑い声は次第に消えていった。

壇上で一人一人名前を呼ばれ、卒業証書を受け取る。

手が震え、心臓がどきどきする。


そして無事に式が終わった。


最後の放課後、君がやってきた。

僕は思わず息を呑んだ。濡れた髪が頬にかかり、制服のリボンが揺れる。


「おめでとう……」


君は僕を見つめ、ちょっと赤くなった顔で笑った。


「ありがとう……○○くんも、卒業おめでとう」


「〇〇、今日もすごく綺麗だよ」


「そ、そんなこと……照れるじゃない……」


その声が、雨に混ざって胸の奥にじんわりと染みた。


式が終わり、放課後の校庭の端。

雨はまだ降っている。

僕たちは並んで立ち、沈黙の中で桜の花びらと水滴が揺れていた。


「ねえ、覚えてる? 入学式の日、私が傘持ってなくて、びしょ濡れだったでしょ?」


「もちろん覚えてるさ。あのとき、僕、どうしていいかわかんなくて……」


「ふふ、あのとき○○くん、必死だったよね」


君はクスクス笑い、僕の袖に手を当ててきた。

小さな温もりが、胸の奥にふわっと広がった。


「ねえ……そのとき、手を……」


君の視線が少し揺れた。

僕は一歩近づき、そっと君の手を包む。

濡れた手と手が触れ合い、雨の冷たさが不思議と温かさに変わった。


「……あったかい」


「ふふ、あのときも、こうして手を握ってくれたんだね……」


二人の呼吸が重なり、甘酸っぱくて切ない瞬間が、校庭の雨音に溶けていった。


「ねえ、卒業しても、ずっと友達だよね?」


「もちろんだよ。絶対だ」


「……でも、友達以上にもなれたらいいなって思ってる」


「僕も、ずっと……君のそばにいたい」


雨粒が頬を伝い、僕らの目も自然に潤んだ。


その後、校庭には誰もいなくなった。雨はまだ止まない。

桜の花びらが水滴に濡れ、地面に淡く映る。


ふと、君の声が聞こえた気がした。


『なに、まだ残ってるの?』


「え?」


振り返ると、そこにはもう誰もいない。

でも、確かに君がそこにいたんだ――

教室の窓越し、笑顔で手を振る姿が、雨の中で光って見えてしまった。


「……」


桜も雨も光に変わり、君の姿は現実と記憶の間で踊った。

手を伸ばす。届きそうで、届かない。

指先に触れた光の粒が、ゆっくりと崩れ、空気に溶けていった。


校庭は静かになった。雨はまだ降り続ける。

僕だけがそこに残り、桜の花びらが水面に浮かぶように、君の残像を胸に抱いた。




――そして、未来。

僕たちは小さなリビングで笑っていた。

窓の外には雨と、桜の枝が揺れている。

子どもたちが走り回り、猫が丸くなって寝ている。

湯気の立つマグカップが、二人の手の間に温かくある。


「ねえ、覚えてる?」


君が小さく笑いながら聞く。


「卒業式の雨、桜、手を握ったこと、全部覚えてるよ」


「ふふ、覚えててくれたんだ…嬉しい」


「もちろんだ。だから、ずっと一緒にいられたんだ」


君の手を握る。

君は少し照れたように笑い、肩を寄せてきた。


窓の外の雨粒が光を受けて揺れるたび、桜の花びらがふわりと舞う。

子どもたちの笑い声と猫の寝息、カップの湯気が、すべて柔らかい時間に溶けていく。

僕はそっと君の髪を撫でながら、小さな声で呟いた。


「ありがとう……君と、こうしていられる毎日が、ずっと続けばいいのに」


「私も……ずっと、こうしていたい」


君は微笑み、子どもたちの笑い声を耳に流しながら僕の手を握り返す。


桜の花びらが光を透かし、柔らかく舞う。

過ぎ去った時間も、降り続ける雨も、すべてが今の幸せを照らす光になった。

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