EPISODE 16「潰れた紫苑」
とある昼下がり、風雅たちは鴉丸から作戦室に招集された。なにやら大事な依頼があるという。
「なんすか。」
「お前たちに折り行って頼みがある。」
鴉丸はただでさえ渋くて無愛想な面を一層渋くして風雅たちを見る。そして告げられた頼みとは、
「妖狩:『猫又』を連れ戻せ。」
「え、『猫又』を!?」「やっとですか…。」
「ほえ?誰、だれ!」
分からず頭が混乱している花に風雅は『猫又』について説明をする。
「妖狩:『猫又』…デイブレイクの生き残り、俺たちの妹分だ。かつてとあるミッションにて深い傷を負い、現在は記憶処理を施して普通の中学生として暮らしてもらってる。」
「なぜ戻す気になった…鴉丸。」
「今の特異課には戦力が足りない…これまでとは段違いの“恐怖のシナリオ”が間近に迫っている…!おそらく10年前のデイブレイク以上の被害が出るだろう…。」
『…!!』
双子である二人は知っている。あの地獄絵図のような惨劇を、人々が泣き叫び、血に塗れた光景を。それだけは絶対に繰り返してはならない。風雅はすぐに鴉丸からの依頼を引き受けた。
「で、行き先は…!」
「中学校だ…。」
ー6月7日 私立百合園学園ー
百合園学園。東京都にある中高一貫の学校であり、生徒、教員、部活の数も都内ではトップクラスのマンモス校である。
その中にある中等部2年4組ではホームルームが行われ、担任から4組の生徒へお知らせがあった。
「はい、では今日からこのクラスに、教育実習生の先生が来てくれてます!どうぞー。」
入り口の扉が開き、入ってきたのは一組の男女。お硬い黒スーツに身を包み、メガネを掛けて教卓の前に立った。
「どもどもー八雲 風雅でっす。」
「緋月 花ちゃんでーす!」
クラスの皆は美男美女の教育実習生に歓喜し、女子は風雅に一目惚れ、男子は花にまるで祭りの神輿担ぎのように大歓喜した。
担任は生徒を落ち着かせ、まずはみんなで拍手をして二人を迎え入れた。
このクラスに来たのには狙いがあった。風雅はメガネのレンズの奥から窓際の席を見つめる。
そこには一人の少女が座っていた。一人だけ拍手をせず、ただそっぽを向き、頬杖をついて外を眺めていた。
一限目・国語。
風雅たちは教室の後ろの方に立ち、授業を見ている。
「風雅くん、私も学校行ってればこんなに楽しめたのかな…。」
「たぶんね…俺も行けなかったからなぁ…。」
風雅はさりげなく窓際の席に移動し、先程目をつけた少女に近づく。そして小声で声を掛ける。
「おーい…“琥珀”!俺だ風雅だよ。妖狩:『神狼』だ。」
少女の名は「“東雲 琥珀”」。藤色の髪をサイドテールで束ね、猫のように鋭い目を持っている。そして声を掛けてきた見知らぬ男を睨んだ。
「何、アンタ。今授業中だから話しかけて来んな変態。」
「やっぱ記憶消されてるから無理か…。」
二限目・体育。
今回の体育はバスケットボール。二人も見学で体育館で生徒たちの授業を見学することになった。
男女合同でバスケをすることになり、それぞれで盛り上がっていた。
風雅がみんなのプレイを見ていた時、耳に付けたインカムから雷牙からの着信が届いた。
【琥珀とは接触できたそうだな。】
「接触したけど記憶消されてっから塩対応。目に殺意があった。」
【そうか、なら昼休みに琥珀を屋上へ誘え。俺と合流だ。】
「了解。」
琥珀が友達と連携してボールをバスケットゴールに向けて投げようとした瞬間だった。
男子が誤って女子側のコートにボールを投げてしまい、あろうことかボールの先にはすでに打つ態勢になった琥珀がいた。
風雅はすぐに駆け出して男子が投げたボールを片手でキャッチしたのだった。涼しい顔で女子コートの方を振り返り、その笑顔で女子たちを釘付けにした。
「きゃぁぁかっこいい!」「風雅先生かっけぇ!プロかよ!」
「バスケやってたんですか!?」「ガチかっこいいんですけど!」
「琥珀…大丈夫か?」
「え、えぇ…(何なのよコイツ…初対面なのに、何か懐かしい気が…)。」
その後風雅は男子からも女子からも引っ張りだこ。それぞれでスリーポイントシュート、ダンクシュートを決め、NBA選手さながらのプレイを魅せる。
「ハッハー!俺がマイケル・ジョーダンだぁぁ!!」
「うわぁ…すごい楽しんでる…。」
その後汗をかいた風雅は花の元に戻り、一休みした。
「いやーこんなにモテたのは初めてだよ。風雅くん感激!」
「よかったねー。」
ヤキモチなのか花は頬を赤く餅のように膨らませた。
そのまま三限目、四限目を乗り切り、作戦決行の昼休みの時間だ。
風雅は再び琥珀の席に近づき、屋上で昼ご飯を一緒に食べないかと誘うが、舌打ちされて一蹴されてしまう。
落ち込む風雅を見かねて、花が試しに誘ってみることに。
「琥珀ちゃん、私たちと屋上でお昼ご飯食べない?もっとあなたのお話聞きたいなー。」
「はい、喜んで!」
「うぉあビックリした…。」
ー屋上ー
二人に連れられ屋上に上がった琥珀はもう一人の男が屋上に座り込んでいるのが分かった。
「おう、兄貴来てたんか。」
「二時間目の時からずっとスタンバってました…暑い…では始めるか。」
雷牙は立ち上がって琥珀に近づく。二人が琥珀が逃げないように後ろを塞ぎ逃げ場を無くした。
「ちょ、ちょっと何すんのよ!やめてっ!!」
琥珀は雷牙に向けて蹴りを繰り出し、想定外の攻撃に驚いた雷牙はギリギリで回避することはできたが、頬に切傷ができ、血が流れた。
「なるほど…記憶はなくとも体は覚えているのか。」
雷牙は目に留まらぬ程の素早い動きで琥珀を翻弄し、両側の側頭部に指を当てて、電撃を頭の中に流した。
「ゔっ!」
一瞬の痛みで琥珀は頭を抱えて膝を付いた。雷牙が近づき両手を彼女の顔の前に出した。
「数えろ、この指は何本だ?」「10本…。」
「好きなお菓子は」「ドーナツ…。」
「好きな歌手は」「安室奈美恵…」
「好きなお姉さんは」「おっぱいのおっきいお姉さん!!」
「よし完璧だ。」「え、完璧なの!?」
「いやまだだぜ兄貴…術式をちゃんと認知してるかどうかも確かめない…と!」
「ちょっ!」
風雅は確認と称して中学生の胸に手を当てた。
「一年経っても小さいのか…」
「なに…すんのよっ!!」
一気に顔が茹でダコのように真っ赤になった琥珀は指をクイッと下げる動作をすると、突如風雅が強制的に伏せられ、地面に食い込んだ。
「おかえり…琥珀ちゃん…ゔっ!」
「まったく…一年たっても馬鹿やってんのねあんたらは!」
「一年経ってより変態になったな琥珀。」
妖狩:『猫又』 東雲 琥珀
復帰
そして八雲兄弟二人のケータイに新たなミッションが入った。
『デスゲームを止めろ。』
EPISODE 16「潰れた紫苑」完
次回 第17話




