宝物
僕は斉藤実。中学二年生。
今は部活が忙しいけど、小学生の頃は近所の神社がぼくの遊び場だった。
放課後になるとランドセルを放り出して境内へ走る。鬼ごっこもかくれんぼもだいたいその神社だった。とくに好きだったのは参道の玉砂利だ。ざく、ざく、と音を立てて歩くあの感触が楽しくて用もないのに何度も往復した。
ある日のことだ。
足元の白い玉砂利の中に妙にきれいな石を見つけた。石には違いない。でも、ほとんど球体と言っていいほど丸い。そしてすべすべしていた。
宝物を見つけた気がしてそっとポケットに入れた。
家に帰ってからも机の上に置いて何度も眺めた。変わった石だなとは思ったが、それ以上のことは考えなかった。たまたま丸く削れただけだろう、と。
それから数日後。また見つけた。
同じようにほぼ完璧な丸い石。
「あ、またあった」
ぼくは迷わずポケットに入れた。
毎日あるわけではない。月に一度くらいだろうか。忘れかけたころにぽつんと現れる。
秋風が吹きはじめたころ丸い石は四つになっていた。
そんなある日の夕方、母に呼ばれた。
「ちょっと実、あなたにお客さんよ」
玄関へ行くと見知らぬおじいさんが立っていた。神主さんではない。地味な和服姿でにこにこと穏やかな目をしている。
「大事なものを預かってもらっているのでね」
母にそう言ったらしい。
ぼくはすぐにわかった。
あの石だ。
急いで部屋に戻り四つの丸い石を両手に抱えて玄関へ戻る。
「大切にしてくれてありがとう」
おじいさんはそう言ってひとつひとつ丁寧に見つめた。
「ほう……これはこれは……」
そのあと、聞き取れない言葉を小さくつぶやく。
「三つだと思っていました。そうですか四つですか。そうでしたか」
少し考えるように目を細め、それからふっと笑った。
「では、ひとつはあなたのですね」
そう言って、四つのうちひとつをぼくの手のひらに戻した。
そして、また小さく何かをつぶやく。
その瞬間だった。
手のひらの丸い石がじわりと光った気がした。
次の瞬間には、ぼくの両手に収まらないほどの大きさ――ソフトボールくらいの透明な水晶になっていた。
「……え?」
声が出ない。
母も息をのんだまま動けずにいる。
おじいさんはただ深く頭を下げた。
「ありがとう」
それだけ言って、三つの石を懐にしまいゆっくりと帰っていった。
ぼくと母はしばらく玄関に立ち尽くしていた。
あれから何年も経つ。
水晶は今もぼくの部屋の棚にある。
母は笑いながら言う。
「手品よきっと。あれもガラス玉でしょ?」
ぼくは調べていない。
本物の水晶かどうかなんてどうでもいい。
あの参道の玉砂利の音も、
秋の夕方の空気も、
にこやかなおじいさんの目も、
ぜんぶあの水晶の中に閉じ込められている気がするから。
これは、まぎれもなくぼくの宝物だ。
終




