第2章12話:「逃げられない視線」
画面にリクエストが浮かぶ。
《ポーズ:全裸で、片手を胸の前に置き、もう片方の手を腰に添え、体を少しひねりつつカメラを見つめる》
(……ここまで……本当に……逃げられない……)
(でも……やらないと……)
〈羞恥で胸の奥が締め付けられ、全身が熱く、視線を受けるたび体が小刻みに震える……〉
美雪は恐る恐る指示通りの姿勢を取る。
片手を胸の前に置き、もう片方を腰に添えると肩が前に出て背中がわずかに丸まる。
体をひねるだけで、画面上の自分が脆く、不安定に映る。
(こんな……見られているなんて……胸が苦しい……)
〈羞恥で心臓が跳ね、胸の奥がぎゅっと締め付けられ、体が熱くなる……〉
コメントが流れる。
《わあ……覚悟が見える》
《すごく緊張してる》
《見ていてドキドキする》
《そのまま動かないで!》
投げ銭合計:2,750,000コイン
(……まだ……足りない……)
(逃げられない……ルール上……)
〈羞恥で全身が硬直し、胸が高鳴り、視線の圧に体が揺れる……〉
美雪は手の位置や姿勢を微調整しながら、静止する。
(都市伝説……本当に……ここまで……)
画面の数字が止まり、投げ銭が目標に届かないことが明示される。
特殊装置を通した自分の姿は、熱と羞恥だけが残り、次第に薄れていく。
(……戻れない……?)
〈羞恥で全身が熱く、体が小刻みに震える……〉
光が淡く揺れ、足元から存在が引き剥がされるように感じる。
画面に表示される文字は短く、静かに結末を告げた。
――《投げ銭未達成》
――《永続羞恥労働者としてアプリ内に移行しました》
次の瞬間、配信スペースは空になった。
三脚もリングライトも背景も、何も変わらず、そこに立っていた桜庭美雪の姿だけが消えている。
都市伝説は、またひとつ“現実”となった。
画面にはただ、静かな配信終了の文字が残った。




