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そして話も一段落が付き、二十一時少し前。
「……ちょっと、眠くなってきた」
と、美生さんが言ったから、僕は車の運転解説動画を止めて彼女に向き直る。その目は、どこかトロンとしている感じがした。朝からずっと動きっぱなしだったし、疲労がたまっているのは仕方ないだろう。なんなら、僕だって眠い。
「寝てもいいですよ。僕代わりに起きているので」
「いや、昨日会ったばかりの男子と二人きりで安心して寝るほど、私が無防備だと思う?」
「じゃあ、僕が仮眠取りますので、何かあったら起こしてください……」
「いや、それは違うでしょ。私だって眠いんだから……」
じゃあ、大人しく寝てくれや。
というわけで、「何かしたら分かってるよね?」と息巻いてた美生さんはアイマスクを付けてぐっすり熟睡中だ。
そして、気づいたら針は十時二十分を指していた。閉店時間を過ぎても、店の電気は付いたままだ。
このまま、何も起きずに夜が明けるのだろうか。変化と言えば、閉店間際に『蛍の光』が流れて、今はもうBGMが止まっていることぐらいか。……ということはつまり、もうすでに閉店しているのか?
僕は不意に、店内と店外を分ける自動ドアはどうなっているのだろうと思った。そこが閉まっている、動いていないのだとしたら、誰も居ない世界でも店は勝手に営業を終えたと判断が出来る。
試しにちょっと見に行ってみるか。そう思ったその時だった。
店内の明かりが消えて、真っ暗になった。
唐突のことに僕は驚きで言葉を失う。虚を突かれたから、心臓の鼓動が加速して激しい。停電したのかとも思ったが雨や台風も全く来ていないのだ。それはない。
ひとまず、深呼吸をした。いきなり視界を奪われて、動転する頭を落ち着かせる。
そして、僕は手探りで傍にあるスマホを見つけ、懐中電灯モードにする。それから、未だにぐっすりとしている彼女の肩を揺らした。
「……ん、なぁに??」
「美生さん、今すぐ起きてください。店の電気が消えました」
「ええ……うわまぶし」
そう美生さんは僕のスマホの明かりをもろに浴びて顔をしかめる。そして、数秒経って「これは……」と漏らした。どうやら、ようやく状況を掴んだらしい。
「葡萄くんが電気を消したわけじゃないんだよね」
「はい」
「と、すると、勝手に電気が消えたってことか」
「そう、なりますね」
今のアルバイト先でも、こういう閉店作業は人が行っていたから、コンピューターの自動電源オフ機能が作動したとも考えにくい。となると、勝手にとしか言えなかった。
それから僕等は、店内をうろついてみた。いつの間にか冷気を逃がさないためのナイトカーテンが全て閉まっている。鮮魚コーナーをうろついてみても、八時ごろ前まで生魚コーナーに並んでいた魚たちは全部仕舞われていた。惣菜コーナーも消費期限切れの商品はほとんどなくなっており、何個かの売れ残りに半額の値引きシールがついている。
「……え、こんなのいつ、値引きされてたの? 商品もすごく少なくなってるし」
「タイミングは分かりません……。すいません、どうせなら見張っていればよかったですね」
「いや、謝らないでよ。私なんて寝てたんだし……」
「でも、僕たちが見ていない間にこれらが動かされたってことは……」
僕たち以外の第三者がいるのか……? いや、それはあり得ない。もし仮に第三者が居たとして、わざわざ僕らが今いるスーパーの値引きやら魚の片づけなんてしないだろう。
でも、だとしたらどうやって? 何が起きたら、勝手に商品が値引きされて動くなんて現象が起こる?
いや、そもそもだ。今日のトップニュースの品川駅の火事も、誰も居ない世界でどうやって起きるというのだ。誰かが居なければ事故は起きないし、それを報道することもできない。ネットの生配信なんて、もってのほかだ。
……これって一体、どういうことだ? やはり、僕等は元居た世界から切り離されていて、そこでの出来事がこの世界にも反映されているのか? そんなゲームの裏世界みたいな設定、本当にあり得るのか?
とにかく、今は分かっている情報をどんどん確かめていくほかない。
早く、元の世界に戻るためにも。




