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エピローグ

 それから、僕らは愛車で色々なところを旅をした。死に場所を決めるために。


「死ぬなら海がいい!」と理想の死に方について美生さんが話していたから、旅の目的地は主に海沿いの都市だ。今も右側の窓には広大で青々とした海が太陽に反射して輝いている。それを見せつけようと、美生さんは意思のない人形を窓辺まで持ち上げて。


「ほら、ヤドン。海だよ、綺麗だね」


「すっかりはしゃいじゃって……」


「いやぁ、やっぱり海は何回見てもテンション上がるから」


「僕らには東京湾があるじゃないですか」


「東京湾なんか見てもテンションは上がらないよ」


「なかなかすごい言い草ですね……」


 まぁ、確かに彼女の言う通りではあるのだけど。


 なんて話しながら、僕はハンドルを握る。僕が彼女に『一緒に死のう』と言ったその日から、不思議な話だけど美生さんにはどこか生きる希望というか、活力が沸いているような気がした。あんまり食べられなかったご飯も今では僕と同じぐらい食べるし、表情も以前とは比べ物にならないぐらい豊かになった。最近は、朝早く一緒にランニングをしたりと、以前の美生さんに戻ったような感じすらある。


「……○○○まで、あとどれくらいだっけ?」


「多分十分もしないぐらいじゃないですか?」


「自殺の名所って言われてる場所だからね。どんな感じなんだろう」


「絶景、とは聞きますけどね」


 そう返事をすると、美生さんは少し言葉の間を開けて。


「もしさ、そこが心を奪われるぐらい、言葉なんて必要もないぐらい綺麗だったら、どうする?」


「……どうする、とは?」


「今日、ここで旅を終わらせる覚悟みたいなもの、ある?」


「……正直、分かりません」


「……実はね、私もよく分からないんだ。あんなに、死にたがっていたのに」


 でも、人生とはそういうものなのだろう。僕だって、あんなに『君のためなら死ねる』と思っていたのに、いざとなると臆病風が吹く。


「でもね、今日死ぬことになっても私、後悔はしないと思う」


「……はい」


「今まで色々なことがあったけど、ちゃんとやり切ったなって心から言えるから。葡萄は?」


「僕は……もっとうまく出来たんだろうなとは思っていて。だけど、やり直したいとは思ってないです。多分、何度やり直しても、これ以上の結末はないと思うので」


「そっか」


「はい」


「私ね、思うの。今まであったいいことや悪いこと。いい人や悪い人。それ全部含めて、最高の人生だったと言いたいなって。で、私は今断言できるの。


 生き続ける程ではなかったけれど、私の人生は最高だったって」


「……」


 僕はどうだろう。今までの人生を思い返して、最高の人生だと言えるだろうか。いや、きっと最善ではない。もっと、やってみたいこともたくさんあったし、皆とももっと話したかった。


 だけど、それはもう叶うことなどないのなら。


 美生さんとなら、納得をして死ねる。


 ……そうか、納得なのか。この感情は。


 人生に幕を引く。それはきっと人生で最大の決断で、だけど僕はそれに「うん」と頷くことができる。今の天気みたいに雲一つないとまでは言えないけれど、晴れやかな気持ち。


 納得をして死ぬこと。それが多分、人生の中で一番幸福なことなのかもしれない。


 なんて、遺書を書く気分で思う。気付いたら、目的地用の駐車場がすぐ近くにあり、僕はそこに右折して入る。そして、駐車する。


「……葡萄、持ってくの? 家族の写真」


「はい」それはリビングにあった、高校入学祝いのヨーロッパ旅行で家族と撮った一枚。


「私は全部燃やしちゃったから。私も取っとけばよかったな。真夜中のブルースカイの集合写真」


 そう彼女は少し悔やむようにこぼして、「でも、仕方ないな」と小さく笑みをこぼした。


「じゃあ私は今までの思い出を代わりに、抱きしめることにするよ」


 そう言って、彼女は車のドアを開ける。もしかしたら今日が、最後の日になるかもしれない。だから、すっかり愛車になった車のハンドルを最後に一度撫でる。


 そして、僕はドアを開けた。




今まで本当にありがとうございました。ここまで付き合ってくれた方々、本当に愛しています。

また、どこかでお会いしましょう。それでは。

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