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誕生日プレゼントが何がいいかは、ずっと考えていた。
赤信号を無視しながら、僕は法定速度を無視して帰路につく。助手席には、さっき宝石店から持ってきた七号のダイヤモンドの指輪がある。色はローズゴールドで、値段はプラチナの方が高かったけど、美生さんにはこっちの方が似合う気がしたからそれにした。
まぁ、値札なんてこの世界では関係ないからどうでもいいんだけど。
宝石店では多分、今なお警報が鳴り響いているだろう。ハンマーを使って派手に暴れたから、当然と言えば当然だ。強盗なんて、ゲームでしかしたことが無かったから貴重な体験である。
『プレゼント、本当にそれでよかったの?』
車内で流れる音楽と共に、△△の声が脳内に反射してくる。指輪。この世界ではノープライスだけど、大事なのは僕が彼女にそれをあげる理由だ。
『結婚することがプレゼントってことか』
『まぁ、葡萄があげられるものなんて、物以外だとそれぐらいしかないもんね。あと、子種とか』
……その発言はちょっと下世話だと思う。
『でも、葡萄は結婚をするということについて、よく考えたの?』
……そう問われると、考えたとはっきり言うことはできない。本来、結婚となったら経済的な話やら親の期待やら様々なことがまとわりついてくる筈なのに、僕なんてただしてあげたいから、という覚悟の無さだ。
『といっても、この世界で結婚の責任とか言われてもという話だよね』
『だって、あなたたち二人きりの世界なんだし』
『美生さんにもあったのかな。お嫁さんが将来の夢だったこと』
『だとしたら、可愛いな』
確かに、彼女にもそういう時期があったと思うと、ちょっと萌える。この指輪を渡した時、どんな反応をするかは明日のお楽しみにしておこう。
そして、家に帰った後、すでに美生さんは起床していて、帰ってきた僕をジト目で睨みつけてきて。
「私に内緒で、どこ行ってたの?」
「ちょっと、誕生日プレゼントを取ってきました」
「……ふーん? 可愛いもの?」
「可愛いいかどうか分からないですけど……。でも、良いものですよ」
「ふーん、じゃあ期待しておく」
「……あと、ケーキは食べられそうですか?」
「誕生日だしね。そこはまぁ、気合いで」
「別に、無理して食べなくても大丈夫ですからね……?」
ケーキだって、無理して吐いて台無しにされたくはないだろう。
「それよりさ、葡萄。私決めたよ」
「何をですか?」
「赤ちゃん作る覚悟」
「……本当ですか?」
「うん、ずっと考えてたんだ。この生活にも変化が無いと、どうしようもないなって。アイドルももうやめたし、私を縛るものはもう特にないしね」
嬉しい告白だと思うと同時に、唐突だな……とも思う。もしかして変な責任を感じて、同調圧力で頷いてはいないか。
だけど、これでもう枷は無くなった。これは、生きる理由のために必要な行動なのだ。
だから、僕も難しく考えるのやめた。むしろ、避妊具無しを興奮するぐらいのメンタリティーで良いのだ、多分。今までずっと『子どもが出来たらどうするの!』って拒否されてたわけだし。
「分かりました」
「うん。だから、今日はよろしくね。葡萄」




