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梅雨が明けて、夏になった。だから、僕等は旅行の計画を立てた。僕の誕生日祝いも兼ねて。
「行きたいことろ全部行こう」なんて美生さんは言っていたけれど、毎日三十度オーバーの連続する猛暑日に、外に出てはしゃごうなんて気持ちはお互いない。降り注ぐ暴力みたいな日差しに辟易とする毎日なので。
となると、旅行先は必然的に避暑地の観光名所に限定されてくる。高速道路を使って、約百キロの旅。
そして、目的地に到着した。
ただ、避暑地と言ってもやはり真夏日なのは間違いなく、燦燦と太陽がいじわるみたいに熱を届けてくる。だから、首元や額には汗が流れてきて、美生さんがタオルでそれを拭いてくれる。
「ありがとうございます」
「ん、でもせっかく涼しそうなところに来たのに暑いね……」
「水分補給しっかりしないとですね」
「そうだねぇ。というか、すごいね。逆さ富士だよ。湖が反射して、綺麗……」
「でも、美生さんの方が綺麗ですよ」
「……それはちょっと寒いかなぁ」
……さいですか。
そして、僕らは日陰のベンチに腰掛ける。爽やかな風が吹いて、大都会では感じることのないその草木の香りに心が少し安らいだ。
「せめて、アイスクリームでも売ってるといいんだけどね」
「中に入れば作れるんじゃないですか?」
「そこまでして欲しい、わけでもないんだよね」
「たしかに」
「でも、平和だね」
それから、どっちかが「行こう」と言うまで、僕らはぼんやりと湖の景色や自然を堪能した。
それから、植物園に入った。日本では見たことも無い植物やら、外国産の果物の木などがたくさん植えられている。まるでこの場所自体が一つの美術館であるような、そんな錯覚を抱いた。観光客が誰一人いないという異様な状況なのに、色鮮やかに咲く花を眺めているとそんなことすら忘れてしまうから、不思議だ。
「……こういうとこ、たくさん行ってみるのもありかもね」
「そうですね。今度、山道とか行きますか。虫いないし」
「……確かに、この世界ならいないのか」
「美生さん、虫苦手なんですか?」
「ものによるかな……。蝶々とかは好きだよ。葡萄は?」
「害虫以外は大丈夫です。主に不快害虫ですけど」
「不快害虫って?」
「ゴキブリとか……」
「なるほどね、じゃあいざって時は頼りにならないのか」
そう、美生さんは悪戯な笑みを浮かべる。そこには、年相応の無邪気さみたいなものがある。
「でも、君以外のもので心が動くって、すごい久々だな」
「……なんか、すごくロマンチックなこと言われてる気分です」
「茶化さないの。でも、本当はもっとにぎやかで素敵な場所なんだろうね。さっきの湖とかもさ、呑気に鴨とかが泳いで、それを私たち二人が可愛いなんて言ってさ……」
「そう考えると、すごい惜しいですね」
「うん。……本当は、ちゃんと元の世界に戻って君の誕生日を祝いたかったけど、無理だったか」
「まぁ、それは仕方ないです」
「それでも、おめでとう」
「ありがとうございます」
誕生日を祝われてどこか気恥ずかしくなるのも、これで十七回目。今日で僕は十七歳になった。あと一年で選挙にも行けるようになり、クレジットカードも作れるようになるらしい。大人への階段を、また一歩進んだ。
それは嬉しい。だけど、本当はこの気持ちを家族とか△△とも共有したかった。彼女たちも歳を取る。僕たちが歩む歩幅と共に。なのに、僕等の存在は世界に認識されていない。
だから、毎日が少しだけ脅迫なのでした。




