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「ねぇ、葡萄?」
「にゃんですか?」
「いや、何してるのかなと思って」
「ゲームですよ、『きみのためなら死ねる』っていう」
「いや、何そのゲーム、初耳なんだけど……」
説明しよう。『きみのためなら死ねる』はセガから発売されたニンテンドーDSソフトで、ゲーム機と一緒に販売されたローンチタイトルである。内容はと言うと……。
「まぁ、いわゆるバカゲーです。色々なミニゲームがある」
「……なんで、そんなゲームやってるの?」
「なんか、親父の本棚にあったので気になって」
動機に関しては、本当にそれだけだ。タイトルが気になって手に取ったら結構面白くて、何世代も前のゲームソフトのわりによく遊べる。美生さんは僕の手元のゲーム機を見て「画面ちっちゃ!」と言い残し、スマホの操作に戻っていった。暇なのだ、お互い。
外では雨が降っている。僕はぼんやりと窓の外を見て、三日前から延々と降り続ける雨に辟易とする。
真夜中のブルースカイ、と美生さんのワンマンライブが終わって三週間後。今は梅雨真っ只中だ。止むことを忘れた雨の中、合羽を着て走る意欲は僕にはない(美生さんは毎日走ってる)。だから、ヤドカリのように家にこもっていた。買い出し以外で、外出する気力はあまりない。
「ねぇ、葡萄」
「にゃんですか?」
「ひーまー」
「ひまですねぇ」
「どっかいこう」
「いいですけど、どこ行きます? この雨ですけど」
「屋内のとこだったらいいんじゃない? 美術館とか」
「どこの?」
「とりあえず、上野?」
そして、僕は彼女を助手席に乗せ、上野恩賜公園まで来た。雨が降っていなかったら、紫陽花でも眺めながら二人で不忍池でも眺めても楽しかったかもだけど、いかんせんこの天気だ。
そして、僕等は数多くの選択肢の中で国立科学博物館を選択した。どうやら、期間限定で鳥類をテーマとした特別展を行っているらしい。僕ら以外誰も居ないひっそりとした展示コーナーを歩き回り、様々な鳥の模型に二人で感嘆の声を出す。
「なんか、こういう展覧会見てて毎回不思議に思うんだけどさ」
「はい?」
「アフリカとかにしか居ない貴重な鳥よりも、雀とか鳩とかカモメとか、その辺に居る鳥を見てテンション上がるんだよね。どうしてだろう」
「うーん……。身近な方が愛着があるからとか?」
「そうなのかな?」
まぁ、その普段身近にいるはずの鳥も今や全く身近ではないが。
そして、特別展を全て見終わった僕らはベンチでグダグダした後、常設の地球史コーナーへ向かった。
そこでは、地球がどうやって出来上がっていったのかが説明されていた。薄暗い室内の中で流れるシアターはまるで、プラネタリウムのようだとも思う。
「地球の誕生は約四十六億年前……。これって、本当なの?」
「科学者が言うからには本当なんじゃないですか?」
「どうなんだろうね。まぁ少なからず、神様が七日間で……みたいな話よりはあり得るか。あの神話みたいなやつ」
「旧約聖書の創世記ですね」
「そーせいき? というか、葡萄ってそういうの詳しいの?」
「まぁ、最近ちょっと調べていまして……」
「……ふーん」
美生さんは興味無さそうに呟くと、「神様なんていないよ」と言い残してすたすたと次の解説に向かう。思わず苦笑いがこぼれた。
美生さんは無神論者だ。ちょっと筋金入りの。僕らがこの状況を考察しようとした時、神の言葉を出すと彼女はむきになって反論してくる。誰も見たことも無い、誰も話したことも無い上位存在など信じてどうするのだと。その割に宇宙人のことは信じているから、なんか、うん……。
まぁ、人が何を信じるかなんて自由だし、文句はない。海や陸、そして生物の誕生。地球は奇跡の星だなんて言われたりしているけど、説明を聞いている限り、偶然の産物、その繰り返しでこの惑星は人が住める環境になったように思う。美生さんは隣で「ほへぇ……」だなんて呟いているけど、多分ちゃんと理解していない。僕もちょっとしか分からなかった。
だって、小さな惑星同士のぶつかり。それが段々と大きくなり地球が誕生した……。なんて、説明を読むだけだと単純だけど、イメージはできない。
でも、それが本当に頭の中で分かれば、それほど賢くなれたら、知識を付けたら。
この世界を神様が創造したのか否か、分かるのではないか?




