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 それから、部室や職員室も色々漁ってみたけれど、意味はなかった。意味が無いことはだいたい気付いていて、だからそれはただ確認に近かった。この世の全ての事象に、僕という存在が居なくなったという確認。


 職員室から、ぼんやり窓の外を見てた美生さんと目が合う。だから、僕は力無く首を振る。


「やっぱり、駄目だった?」


「……はい。まぁでも、そうだよなって感じです」


「……そっか。……どうする、もうここ出る?」


「……いや、すいません。最後に一つだけ、行っておきたい場所があって」


「どこ?」


「二年五組の教室です」


「……なんで?」


「ちょっと、確認したいことがあって」


 そう答えると、美生さんは少し不可解そうにしながらも「……そっか」と頷いてくれた。わざわざ教室棟に戻るのだったら、さっき行けば良かったじゃんとか、思ってるかもしれない。僕だってそう思うから。


 なのにそれをしなかったのは、それを確かめる勇気が無かったから?


 なんて、意味のない自問自答をしながら廊下を歩く。授業中、誰の声もしない教室棟に風が空を切る音がして、今日は風が強い日だったことを思い出す。


 そして、二年五組の教室に辿り着いた。増している心拍数を落ち着かせようと深呼吸をする。そんな僕を美生さんが不思議そうな顔で見つめている。


「友達でも居るの?」


「……まぁ、そんなとこです」


 緊張のせいか声が上ずった。期待が裏切られる覚悟。それを果たして自分は出来ているのだろうか。本当はもうやめたい。そう思うから、きっと出来てなんていない。


 それでも、僕は彼女の机に向かわざるを得ない。そこで教科書から彼女の名前を見つけた時、泣きたいと安堵が同居した、不思議な感情になった。美生さんがそんな僕をじっと見つめている。だから絶対に泣かないと目を細める。慰めの言葉など、かけられたくなかったから。


 そして、机に掛けられたバッグに目をやると、見覚えのあるキーホルダーが掛けられていることに気づいた。


 それを見つけた時、僕は激情を覚えた。


「こ、これっ!!」


「……どうしたの、葡萄くん?」


「このキーホルダー、見てください!!」


「このタコの? それがどうしたの?」


「このキーホルダーは、△△と……。僕が彼女と一緒に水族館に行ったときにお揃いで買ったやつなんです。どうして、これが……」


 そう感嘆を漏らしながら、僕はその桃色のキーホルダーを手に取る。僕の学生鞄に付いているのと、それは全く同じものだった。どういうことだ、と思考を巡らせる。


 なのに、美生さんはどこかしらーっとした目で僕を見つめていた。


「……葡萄くん、彼女居たの?」


「……まぁ、はい」


「そっか。いや別にそれはいいんだけど……。つまり、彼女さんとデートした時に一緒に買ったキーホルダーが、今このバッグにも付いてるってこと?」


「そうです」


「それは……確かに不思議だね」


 そう美生さんまで考え込むように、唇に手を当てて難しい顔をした。裏腹、まるで僕は神の啓示を見つけた時のような、絶頂しそうなほどの気持ちの高まりを感じた。学校中全て見渡して、僕が在籍していた証拠はどこにもなかった。彼女のバッグを除いては。


 僕がこの世界に居たこと。それを立証してくれるのは私物と、僕の家の中の物だけだった。なのに、付き合っていた△△だけは、僕がこの世に居た証を身に付けてくれている。様々な場所をデートして、キスまでしたあの子が。


 だから、僕は思った。こんな陳腐な言葉でこの気持ちを表現する日が来るとは思わなかったけど。


「……奇跡だ」


「……え?」


「奇跡だと思いませんか? この僕等の存在をまるで抹消したかのような世界の中で、△△が、彼女だけが紛れもなく()()()()()()()()()()()()になってくれているなんて」


「……それは、そうかもだけど」


 これは、完璧なまでに仕組まれた世界で初めて見つけた穴だ。もし仮に神様が居たとして、その神様が仕組んだ二人きりの世界で見つけた唯一の穴。その穴が、彼女との思い出の品なんて、奇跡としか形容しようがない。


 なのに、美生さんは納得のいかないような難しい顔をして、尋ねてくる。


「……あのさ、このキーホルダーを買おうって言いだしたの、どっち?」


「なんでそんなこと聞くんですか? △△ですけど」


「なら、それって……」


 美生さんは言いかけて、何を思ったのか言葉を飲み込んだ。僕は未だに熱狂の最中(さなか)に居て、その意図を大して考えられない。これが、愛の力だろうか。それを確かめるためにも彼女のSNSを見れたらいいのだけど、彼女はインスタもツイッターもやっていなかった。誕生日がパスワードのスマホも彼女自身が所持しているからか、どこにも見当たらない。


 だけど、とにかくこの一歩は大きい。それはきっと進展で言うなら、床に置かれたコップに一粒の雫が滴るようなものだったけど、僕の心に火を、期待を灯すには十分な歩幅があった。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか。次は、美生さんの高校に」


「……あ、うん。そうだね……」


 だけど、美生さんの顔は浮かないままだった。


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