明らかに見る
〈螢族火種も寒くありにけり 涙次〉
【ⅰ】
永田です。先日SNSに「散文はいゝね。多少の惡文も許されるから。それを超えたところにある、澁澤龍彦の小説作品などもあるが-」と投稿したが、まだいいねは付いてゐない。勉強不足はお互ひ様だが、澁澤の小説を讀まないのでは、日本に生まれた甲斐がないつてものだ。皆、web小説の讀み過ぎなのだ。澁澤、小説作品としては初期の『犬狼都市 -キュノポリス-』の頃は、世界文學に通用するやうな硬質の文體だつたのだが、遺作『髙丘親王航海記』まで至ると、アラブの畸譚文學、そして日本傳統の戲作文學に影響を受けたか、物柔らかで平明な語り口に變質してゐる- 彼の異端の佛文に関するエッセイは、まだ準備段階の作なのだ、とはつきり云へる。彼は小説家である、と断言しやう。で、澁澤ほど【魔】を呼ぶに相應しい作家はゐない、と私は云ひたい。ルシフェルの息子と稱する【魔】が、私の許を訪れて、「あんた、魔界の宣傳文を書く氣はないか?」と訊く。私は「カンテラが怖くないのか? 俺は彼と昵懇なんだぞ」と答へた。「その言葉、ノーと云ふ答へと受け取つていゝんだな」。ルシフェルの息子はさう云ひ、私に冷凍光線を浴びせた。絶對零度はまるで灼熱だつた、やうな氣がする。私は死んだ。
【ⅱ】
特に現世に思ひ殘す事はないので、私は冥府行きとなつた。冥王ハーデースの謁見で、「そこもと、カンテラの係累と聞いた。冥府と人間界の連絡係になつてくれぬか」-思つてもみない好意的な待遇に、私が即OKを出した事は云ふ迄もない。*「シュー・シャイン」は死に、消えたのだ。私はその後、** 八重樫火鳥を探した。火鳥はハーデースの手助けもあり、直ぐに見付かつた。火鳥「あなた、絶對に生は諦めないと、あれ程云つてゐたのに-」-「明らかに見る、で、あきらめだと誰かゞ云つてゐた。俺は冥府が氣に入つたよ」。それ以降は、火鳥と私の純愛物語の續きなので、プライヴェートな事。特に説明する義務はなからう。
* 當該シリーズ第173話參照。
** 前シリーズ第162話參照。
【ⅲ】
人間界と自由に行き來出來る、と云ふ事は、テオ=谷澤景六、じろさん=此井晩秋との* 同人誌『季刊 新思潮』については、その儘存續出來ると云ふ事だ。そればかりか、私は死後、K談社の文藝誌『G』に「火鳥との再會」と題した掌品を寄稿出來た。上総くんがその手になる新聞コラムに、「カンテラ物語と『火鳥もの』で髙名な小説家、死す」と書いてくれて、私の事を變はらず浪漫的に見てゐる女性讀者に向けて、我が作を發信する事、人間界にゐた頃と同じ。私はラッキーな星の元に生まれた自分を、初めて感じる事が出來た。
* 當該シリーズ第102話參照。
※※※※
〈異端とか大層な評被りて滿足出來る我が作ぢやない 平手みき〉
【ⅳ】
カンテラは(別にさうしてくれなくとも構はなかつたのだが)、一應私の仇討ちをしてくれる、と云ふ。「思念上」のトンネルを經て、魔界にじろさんと出張り、「やいルシフェル、お前の出來の惡い息子を出せ。さもなくばまた* 黑ミサの邪魔をしてやるぞ!」、と脅した。澁々であらうが、ルシフェルは「息子」を差し出した。(全く、不出來な息子を持つて、儂も災難な事だ)とルシフェルは思つてゐたらう。で、カンテラが「息子」の冷凍光線を剣で以て防ぐ間に、じろさんが奴の急處を突いた。「息子」絶命。
* 當該シリーズ第166話參照。
【ⅴ】
私は人間界で入手した本を貪り讀んだ。火鳥が前と變はらず温かい眼差しでそれを見てゐる。あ、さうさう、私の* 愛猫・フウはカンテラ事務所預かりとなつた。文・學・隆と云ふ恰好の遊び相手を得て、フウは私がゐた時より華やいで見えた。全く猫つて奴は、現金なものである。
* 前シリーズ第98話參照。
【ⅵ】
然しルシフェル、この『カンテラ物語』・前回、じろさんにしてやられた事も根に持つたか、カンテラ逹を大分悩ませたやうだ。*「猫nekoふれ愛ハウス」の運営を、またしても妨害して來たらしい。岩坂十諺はルシフェル恐怖症である。カンテラ「修法」で何とか持ち堪へたものゝ、** ねかうもりの被害で多くの猫が死んだ。だが、その猫逹は、皆冥府で元氣(?)にやつてゐるからまだ良かつた。補充の保護猫が後を絶たないのも、岩坂には倖ひした。
* 當該シリーズ第144話參照。
** 當該シリーズ第28・他參照。
【ⅶ】
かうして見ると、私に関連する對ルシフェルの戰ひは、恙なくカンテラサイドの勝利に終はつたやうに思へる。私は胸を撫で下ろした。「明らか」に見るには、それなりの氣苦勞を伴ふんだなあ、と云ふのが正直な感想。だが、火鳥との文字通り「再會」は、全ての障害を超えて私をこれから支へる事になるだらう。さう、私は現世にそぐはないあぶれ者から、初めてまつとうな仕事の出來る「男」になつたやうな氣がした。
【ⅷ】
火鳥は、元「ふれ愛ハウス」の猫逹に囲まれ、前世では出來なかつた、子を成す事の替はりにしてゐるやうだ。私は、私の口から、我が人生に於ける勝利宣言が出るのを禁じ得なかつた。亡靈・笑=永田でした。お仕舞ひ。
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〈ビーサンは冷たき外氣知るによし 涙次〉
PS: 今回の仕事料は、尠ないが、私の3台のバイクを賣つたカネで賄つた。それを付して、擱筆するとしやう。




