悪の華ひらくⅡ
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復讐の計画はこうだ。
リリアとエリオールの婚約が決まったとなれば、近いうちに自分のときと同様の『婚約の祝宴』が催されるはず。
そのめでたい席に、哀れな亡者となったフィオナ・ベルベット嬢が乱入するのである。
『わたしを毒で殺したのは、この魔女よ!』
と、大声で告発してやるのだ。
大勢の来賓が見ているなかで、化けの皮を剥がされたリリアの醜態はさぞ見物であろう。
彼女の非道な行いを知り、エリオールは激怒するにちがいない。
偽りの婚約は当然、破棄──ただちにリリアと、当人に加担した人間たちは取り押さえられる。彼女らにはいずれ、なんらかの処罰が課せられることだろう。
(そして騒動のさなかに、わたしは……)
見事、復讐を果たした亡者の令嬢。
彼女はなにも言い残さず、その場を悲しげに去ってゆくのだ……。
恨みは晴らした。
だが、己にかけられた不死の呪いは……いったい、どうすれば解けるのだろうか。
もちろん、エリオールのことだ。必ず、立ち去った元婚約者の後を追いかけてくれるだろう。復讐後の悲しき愛の結末に関しては──いまは、保留にしておくのが妥当のようだ。
(幕は完璧に、美しく下ろしたいもの。わたしがもう一度、安らかな死の眠りにつける方法を……なんとしてでも探し出してみせるわ)
さて、この復讐計画において要となるのが──目の前にいる、従者ディオス・シュスである。
禁術だかなんだか知らないが、人の許可も得ずに勝手に生き返らせた彼も当然、断罪の対象に入っている。
(報われない想いゆえの暴走。死んだ主を自分のものにしようとしたなんて……ああ、なんて愚かなディオス……)
非情ではあるが、その恋心を利用する手はない。
「もう、わたしにはあなたしかいないの。青ざめた醜いこの体──きっとエリオールも……いいえ! 世界中の人々がわたしのことを疎むにちがいないわ!」
「…………」
「ただ一人、あなたを除いて……ね?」
鉄の仮面に向けて、うっとりと片目を閉じた。
無論、これもすべて芝居だ。
貴族の令嬢として、世の殿方のお気に召す所作くらい研究済みである。『あなたは特別、ほかの人とはちがう』という甘いささやきを混ぜて褒めちぎるだけで、彼らの牙城は崩落するのだ。
笑いをこらえながら、フィオナは従者の顔色をうかがう。
「…………」
……変化はない。
仮面も加わって、まさしく鉄面皮である。
手応えがあるんだが、ないんだか……いや、きっと感激のあまり、彼は硬直しているのだ。ならば、その心の隙を狙って、フィオナは一気に畳みかけた。
「ええっ! それじゃあ、さっそく二人が結ばれた運命を祝して、いまこの場で夫婦の誓いを立てましょうってぇ?」
「…………」
従者の手を握りしめ、彼女はぐいと顔を寄せる。
一瞬だけ、歓喜に目を細めてみせる……だが、すぐにわざとらしく表情を曇らせた。
「ああっ、ダメよ。ダメなのよ、ディオス……」
そう言って、今度はよよと悲しげに彼のそばを離れる。
数歩距離を取って、令嬢は自身のまとう質素な木綿のローブの裾をつまんだ。そして、舞台に上がった役者よろしく、衣服を左右に広げて見せた。
「こんなお粗末な格好ですもの。髪も整えてないし、この身を飾る宝石もないわ……」
「…………」
「ごめんなさい。とてもじゃないけれど……こんな姿じゃあ、神さまの前できちんとした誓いなんて立てられないわ。
『それでも構わない。フィオナさまはまぶしいほどに美しく、世界に一つしかない華だ』と、あなたは言いたいんでしょうけれど、でも──」
「…………」
「やっぱり、着飾ってなんぼでしょう? 『花嫁』っていうのは」
ローブの裾をぱっと離す。
優雅な微笑ののちに、死した令嬢は従者に命じるのであった。
「必要なものは、たったの三つでいいわ」




