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【連載】Dark × Marriage[ダーク×マリッジ]〜死せる花嫁と漆黒の護衛騎士〜  作者: シロヅキカスム
第二章

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禁じられた恋

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 情熱をすべて説き終えたようで、場に再び沈黙が訪れる。


 気まずい空気のなか、フィオナは恐る恐る半分だけ顔を持ち上げてみた。見れば、向こうには胸元を直しながら、こちらを真摯に見つめているディオスの姿があった。


 眼差しをかわすよう、令嬢はさっと顔を伏せる。先程とは別の意味で、人に見せられる表情ではなかった。


「フィオナさま」

「!」


 自身を呼ぶ声とともに、足音が近づいてくる。

 床を通して伝わる振動と、胸の鼓動とが重なった。たまらず、フィオナはがばっと勢いよく顔を上げた。


「ま、待って!」

「…………」


「ダメッ、動かないで!」

「はい」


「その場で止まりなさい……こっちを、向かないで……! そう、後ろを向きなさい!」

「…………」


「早くっ!」


 命令に──従者は、従順に従う。


 ひるがえったその広い背中に、令嬢はつっかえながらも言葉を続けた。


「そ、そのままよ……そのまま、扉のほうを見ていなさい。いい? わたしが良いと言うまで、こちらを振り向いてはダメだから……」


 制しながら、フィオナは急いで床から立ち上がる。そして、そそくさと祭壇の奥、神の像の裏手までまわって身を隠した。


 ほんのり熱いような頬を押さえて、彼女は思考を巡らせようとした。けれど、集中できない。それほどまでに、頭はひどく混乱している。


 ちらっと、神の像の影から顔を覗かせてみる。

 ディオスの様子をうかがってみると、彼は忠実に命令に従っているようで、背を向けたままだ。ひとまず、令嬢はほっと息をついた。


(どうしよう……わたし……!)


 互いに背くよう、フィオナも身をひるがえす。

 自身の背を石像に預けて、重ね合わせた両手で口元を覆う。誰にも聞こえないように、ためらいの吐息をかすかにこぼした。


(わたし……っ!)


 すべてわかってしまった。

 まさか、まさかではあるが──従者ディオスは横恋慕しているのだ!


 それもほかならぬ、主である侯爵令嬢の自分に!


 侮辱と熱情に満ちた弁を通して、フィオナはそう解釈した。再度吐息をついたあと、悩ましげに眉根をきつく寄せる。


(長年一緒にいたのに、ぜんぜん気づかなかったわ。だって、いつもあんな仏頂面しているんだもの……)


 衝撃の事実に、気持ちと理解が追いつかない。しばらくは何度もため息をついたり、かぶりを振ったりしていたが……やがて思考は、徐々に納得へとつながっていった。


(でも……考えてみたら、そうよね。こればかりは、仕方のなかったことなのかもしれない……)


 眉間の皺をゆるめて、重ねた両手を胸の前へ下ろす。神の影のもとで、唇をすぼめたフィオナはぽつりとつぶやいた。


「だってぇ……わたしが魅力的すぎるから」


 腐っても、華は華ということだ。


 幼少期に出会い、お互いに弱い立場に置かれていた子どもだったことから、共生を誓い合った二人。過ぎゆく年月(としつき)のなかで、それぞれが相手との間に特別な感情を育んでいった。


 令嬢は忠義に対する、純粋な信頼を。

 ……けれど、一方で従者のなかに芽生えた情は、まるでちがう気色を帯びていたのだ。


 気高く、日々美しく成長してゆく令嬢を間近に……彼はどう思っていたのだろうか。


「ブフッ……いやだわ、わたしって罪が深すぎる……」


 想像して、思わずだらしなくにやけてしまった。


(でも、ごめんなさい……)


 心のなかで、フィオナは謝罪を述べた。


 はっきり言うが、ディオスは好み(タイプ)ではない。

 やはり己が愛を捧げる相手は、公爵家のエリオール・シルクスただ一人だけなのだ。


 きっとそのことが、彼を狂わせてしまった原因になったのだろう。

 身分のちがう、主人へ(いだ)く許されざる想い。そばにいるのに、けして振り返ってもらえないつらさに、いつしか従者の心は歪んでしまったのだ。


「…………」


 フィオナはもう一度、像の影からそっとディオスの姿を覗き見る。

 一見すると、ただ突っ立っているだけのようだが──いまならわかる。どことなく、その背中には哀愁が漂っているような気がしてならなかった。


(長年、懸想(けそう)し続けていた相手が非業の死を遂げたとき……彼は好機だと捉えたのでしょうね。愛する人を──つまりはわたしを死からよみがえらせることで、その禁断の恋を身勝手ながらも成就させようとした……)


 なんて、愚かな。

 フィオナはまた身を返し、像にもたれかかる。このやるせない思いを、腹の底から長い息にのせて吐き出した。


 彼のしでかしたことは許されないことだ。

 許すつもりもない……けれど自身にも多少なり因果の関わりがあったことを、令嬢は静かに認めた。


 憂鬱の影が忍び寄る。

 冷えた体を温めるよう両腕で抱きしめて、フィオナは愛しい名を口にした。


「エリオール……」


 なんの皮肉やら、いまならディオスの気持ちが痛いほどわかってしまう。自身もまた、彼とおなじ立場に追いやられてしまったのだから。


 けして叶わぬ悲恋の淵へ。

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