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【連載】Dark × Marriage[ダーク×マリッジ]〜死せる花嫁と漆黒の護衛騎士〜  作者: シロヅキカスム
第二章

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従者の告白Ⅱ

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「おまえの見目は派手で麗しい……」


 けれど、心は浅ましき獣。


「花の香りで哀れを誘うも……」


 無慈悲な棘が非情に突き刺す。


「穢れた豚め、もうおまえにはうんざりしている……」


 あんまりな言い草であった。

 容赦なく浴びせられる侮辱のつぶて。床に打ち伏したままの令嬢は、ショックのあまり頭のなかが真っ白になってしまった。


 その(かん)も、従者の責めは続く。


「時は移ろい、人は変わりゆく……。かつて愛したその輝きの園は、いまや草すら生えず死に絶えて、あるのは腐った黒の汚泥のみ。

 いっそこの(いき)で、その悪辣(あくらつ)を叩き切ろうか……」


 まるで詩でも(ぎん)じているかのような、流暢(りゅうちょう)な語りだった。


 ……信じられない。

 到底、受け入れがたいことであった。

 まさか、あの我が忠実なる護衛騎士が、こんな恨みを胸に潜めていたなんて。


(嘘と言って……ディオス……)


 喉がしめつけられ、声が出てこない。


 フィオナにとって、ディオス・シュスは特別な存在でもあった。幼少期よりベルベット家に──ひいては己の従者として仕えて以来、常にそばに置いていた精神的な守護者なのだ。


(わたしたち、いつも一緒だったじゃない。わたしが泣いているときも、笑っているときも……いつだって、あなたは──)


 ほとんどの人間はディオスを遠ざける。たしかに彼は無愛想だし、なにを考えているのかフィオナでさえもわかりづらい変わり者だ。


 けれど、彼は誰よりも忠実でいてくれた。

 館のなかでも、外でも、数少ない味方として、フィオナは一心に従者に信頼を預けていたのだ。


 それなのに。


「聞け、悲劇の人よ……」


 これが、彼の本心だというのか。


「おまえは手に負えぬ傲慢(ごうまん)の化身だ。怒りの火の粉を撒き散らし、無様(ぶざま)にわめくその姿は、赤子以上に酷い始末……」


 口を閉じていた代わりに、憎悪を呑みこんでいたというのか。あの黒い瞳でこちらを見つめるとき、そこに情のひと欠片もなかったというのか……。


「聞け、喜劇の人よ……」


「ぅ……ぬぅ……」


「おまえはしようもない気取り屋婦人だ。絢爛(けんらん)の鎧を着飾り、媚びてへつらうその姿は、目を病む最悪の惨状……」


「ぬっ……ぐぬぅ……」


 床の上で、令嬢は拳を固く握りしめた。細い指の骨が節くれ立つほどに、力いっぱいの激情を込める。


 その(まなこ)は、暗がりのなかで大きく見開かれていた。

 涙は涸れ果て、床に落ちる雫もない。

 変色した瞳に宿るのは、悲しみでも絶望でもなく……ただの『怒り』という、じつに彼女らしい感情であった。


 とても見せられない表情をしている。


 ──そうか、そうか。

 おまえはそういうやつだったのか。


(ずいぶん、好き放題に言ってくれるじゃないの……)


 出ない声の代わりに、心中で悪態をつく。


 いったい、なにさまのつもりだろうか。

 さんざん人のことを(あざけ)り、罵ってくれたが、当のディオスとて大層な人間ではないだろうに。


(落ちぶれた下級貴族の出身で、はした金で我が家に売られてきたくせに……)


 ともに見捨てられた子どもなのだ。

 だから、目をかけてやったし、そばに置いてやった。 


 自身が白嶺の華として大成したあかつきには、最上級のコネを使って、従者の彼にもそれなりの地位を約束してやろうと思っていたのに。


「もう、なにも話すな……」


(なによ、偉そうにっ……!)


「おまえの口は美を語るに当たらず……」


(美ですって? それじゃあ、あなたの石の唇からはさそがし神秘めいた芸術が語られるのでしょうねぇ……!)


「いま、涙は()れた。おまえの目々(めめ)は欲望に濁っている……」


(黙りなさい、黙りなさいっ! 恩知らず、恥知らず……あなたなんか、ディオスなんか──!)


 ふつふつと、心が憎悪に煮えたぎる。死した体に血潮が戻ってきたと錯覚するほどに、活力がみなぎってきた。


 足の(かかと)を高く上げて、爪先を床に立てる。身をわずかに縮こめてから、いざ激昂の勢いをつけて令嬢は立ち上がろうとした。


 ──ところが、そのときであった。


「誰とひとりもおまえを愛さぬ……されど、

この世は不可思議なもので──」


 ふと、言葉が柔らかくなる。

 屈辱的だった語りに、やがて妙な語句が混じっていった。


「──可憐さよりも(けが)れに口づけ、終末の世に(ふけ)る奇人あり。

 おまえの心、わたしの箱にそっとしまおうか」


(……えっ)


「我らは鏡、対なる者たち。その(すが)る手で我が身をつかめよ。(しん)(ぞう)ごと汚泥に溶かして、ともにつづろう皮肉(かわにく)のお(とぎ)……。

 わたしの心、おまえの土をそっとかぶせるか」


(は……はい?)


 侮蔑はいつしか、暗い熱を帯びていった。

 つらつらと流れゆく、罪の語り──今度は別の意味で聞くに堪えなかった。

 

 これではまるで、そう、まるで……。


 中途半端な姿勢のまま、フィオナは硬直した。腕の暗がりのなかで、青い頬にほんのり色を差す。

 怒りの(しゅ)ではないことは、つけ加えるまでもない。


(あのディオスがっ……あ、あのディオスが……!)


 以前、令嬢は従者に(たず)ねてみたことがある。


『あなたって、雑用がないときはいつもボーっとつまらなそうに突っ立っているけれど……趣味くらいないの?』


 そんな主からの問いに、彼はまっすぐこう答えた。


『趣味……?』

『ええ、そう』

『空に流れる雲を眺めています』

『…………』


 そのようなことを言って、人を大いに白けさせたディオスがまさか──!

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