裏切りのレクイエムⅡ
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残酷な報せに、彼女は二度打ちのめされた。
一つは、やはり自分が死んでしまったということ。饗宴で毒を盛られて、齢十八という儚すぎる一生を終えたという事実は、到底受け入れられるものではなかった。
そしてもう一つ、耐えがたい悲劇がある。
新聞を握りしめたまま、フィオナはその場でがくっと膝を崩し、床に腰を落とす。末尾のしたためられた一文が、彼女の瞳に赤熱した烙印を押し当てた。
愛しのエリオール・シルクス。
その彼との大切な婚約を、あろうことか義妹のリリア・ベルベットが受け継ぐというのだ。この非情な報せは、令嬢の胸を引き裂くには十分であった。
「……はめられた」
青ざめた唇がかぼそく声をつむぐ。令嬢の頭のなかで、いまようやく真実がひとつながりの輪を描いた。
「わたしは見事にはめられたのね」
「…………」
「わたしを殺した犯人がわかったわ。あの子──リリアが、わたしのグラスに毒を盛ったのね……」
これを悪魔の計画と呼ばずしてなんと言う。
高貴な身分を持つ殿方との婚約──それも最上に当たる公爵家とくれば、貴族の令嬢なら等しく憧れるものだ。喉から手が出るほど、なんてたとえでは生ぬるい。ライバル全員を奈落の底へ叩き落としてでも、叶えたい願いなのだ。
リリアとて、それは例外ではなかったのだろう。
なんと恐ろしい娘か……のほほんとした顔の裏で、彼女は虎視眈々と義姉の後釜を狙っていたのである。
「わたしはまんまと、あの子の踏み台にされたというわけね……」
くしゃりと、紙端が音を立てる。
義妹一人の策略とは考えにくい。おそらく、義母のアマンダ・ベルベットの存在が影に潜んでいるはずだ。
思い出してみよう。シルクス家との縁談を受けるか否かの議論のために、親戚一同が招集された席であの女の態度はどうであったかを。
強情な父の反対をすっぱり退けて、フィオナの縁談を歓迎するそぶりを見せていたではないか。
それも当然だ。
すべては横からかっさらう算段なのだから。
「ぜ、ぜったいに、そうに決まっているわ……!」
悔しさに、唇を強く噛みしめる。ボタボタと大粒の涙が長い睫毛からこぼれ落ちて、手元の紙面を暗く濡らしていった。
フィオナの脳裏には、饗宴での光景がよぎった。義妹、義母、そして父の三人が隣り合って並んでいる……あのとき、彼女たちはいったいどんな顔をしていたか。詳細には覚えていないようで、記憶のなかの表情は黒く塗り潰されている。
だが、きっとおぞましくほほ笑んでいたはずだ。
浮かれきった愚かな娘が、罠に嵌まる様子を眺めて。
「もしかしたら、お、お父さまも……っ!」
そうだ。父もすべてを承知の上で加担していたにちがいない。
そんなに、実の娘が疎ましいのか。さらに惨めさが込み上げてきて、令嬢はしゃくりに喉を鳴らす。
忌まわしい真相を告げた新聞を、彼女は両手でビリビリと破り捨てた。そのまま手で顔を覆い、嗚咽をこぼしながら背中を小さく丸めるのであった。
「……っ……」
……そのとき、令嬢はふと気づいた。
顔を覆っていた手を動かす。指先で肌の輪郭をたどりながら、目元の濡れや小刻みに震える吐息に触れていく。
「……待って、ちょっと待ってちょうだい……」
急にすくっと立ち上がった。今度は頭に触れ、左右の肩に触れ……膝、爪先、膝、爪先と順々に体の自由な可動を味わった。
「わ、わたし……やっぱり、死んでないじゃない」
無口な従者の傍らで、フィオナは唐突にふふっと笑い声を上げる。目元の塩辛い水をぬぐい、馬鹿馬鹿しさに声が出てきた。
「そうよ! わたし、生きてる! ちゃんと生きて、ここにいるじゃないっ!」
思わず、両手を胸の前でぐっと握りしめる。それから彼女は、祭壇の前で突っ立っているだけのディオスに晴れやかな顔を見せた。
「ねっ、そうでしょディオス? あんな新聞、まるでデタラメ! わたしは死んじゃいないわ、生きているのよ!」
涙から一転、令嬢は感激に身を震わせる。
ところが、彼女の求めてきた同意に、従者は静かに首を振った。
「いいえ」
あまつ、短くはっきりと否定した。




