表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載】Dark × Marriage[ダーク×マリッジ]〜死せる花嫁と漆黒の護衛騎士〜  作者: シロヅキカスム
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

墓地と襲撃Ⅳ

 ──なんとしても、生き延びなければならない。


 決意を胸に、彼女は再び駆け出す。貴族としての美も尊厳もかなぐり捨てた、命をつなぐための勇気ある撤退(てったい)である。


 自慢の銀髪が垣根の切っ先に乱されようが、艶やかな頬に傷を残そうがいとわない。野蛮な獣たちの追撃を、墓標の合間を複雑に縫うことでかわしていった。


 何度、硬い石材の角に身をぶつけたことか。痛みに堪え忍ぶも、途中、木の根に足をとられたか、つんのめって派手に転んでしまった。


「……ッ!」


 とっさに、フィオナは悲鳴を()みこむ。

 前に倒れた姿勢で、足元へ振り向けば──なんと、荒れた地面から人の手が生えているではないか。


 幻覚などではない。そのおぞましい青い手は、令嬢を死者の国に引きずりこむつもりなのか、彼女の白い足首をがっちりとつかんでいる。


 まずい……その間にも、静寂を噛み砕きながら化け物たちが迫ってくる。


 ぎりっと、歯を強く食いしばったフィオナは、地面に落ちていた墓石の破片をつかんだ。自身の足を傷つけることを承知して、忌まわしい死人(しびと)の手を石で攻撃した。


 ひん曲がった指から脱したとたん、追いついた一頭の野犬もどきがフィオナにのしかかろうとした。それを寸でのところで身をひねって避け、全身を土と草で汚しながら転がった。


「……っ! このぉ!」


 転がった先の墓石を背に、彼女はずるりと上体を起こす。顔についた砂埃を吸いながら、手につかんだままの石の破片を野犬へ投げつけた。


 憎き鼻頭にクリティカルヒット──さらに背後からまた別の一頭が大口を開けて迫るも、そのまま背中向きに墓石を倒すことで下敷きにしてやった。


「……ハァッ、ハァハァ……!」


 倒した墓石の下から、うぞうぞと虫が湧いて出る。まぶたを閉じて見なかったことにしてから、令嬢はよたよたと立ち上がった。


 満身創痍(まんしんそうい)になりながらも、フィオナは墓地を抜け出した。


 外門は相変わらず閉じたままだ。

 彼女の足は自ずと教会のほうへ向く。飛び石につまづきつつも、石畳を上がり──ようやく両扉に手をかけることができた。

 

 安堵の吐息をついたのも、つかの間であった。


 わめき狂う最後の一頭が、墓地から飛び出してきたのだ。野犬はまっすぐ、フィオナのいる教会の扉を目指して突進してくる。


 天に祈って、彼女は残りの力すべてを絞り出す。

 呪いのように重い扉を引っ張り、希望へのわずかな隙間をつくると、急いで身を押しこもうとした。


 だが、瞬間──追いついた野犬に、扉ごと強烈な体当たりをかまされてしまった。


 衝撃に押し出されて、フィオナはそのまま教会の汚い床に打ち伏した。気力、体力すべてを尽くした上に、全身を強打したのだ。痛みにうめき、彼女は起き上がれない……。


「うぅ……ぅ……」


 責め立てるような吠えが、脳を揺らす。

 完全に閉め損なった教会の扉には、野犬の頭部が挟まっていた。恐怖のうなり声を上げながら、化け物はじりじりと……隙間に、体をねじこませようとしてくる。


「……ぅ……うぉあああッ!」 


 戦慄と激昂の叫びであった。

 侯爵令嬢フィオナ・ベルベットは這い上がった。


 無我夢中になって、扉の取っ手を引っつかむ。肉付きの薄い上体を大きく反らせ、細腕が引きちぎれそうになるのも構わず、決死に敵の侵入を阻止する。


 ギチギチと根比べに音が軋む。

 すでに彼女の眼前には、醜い犬の鼻づらがかすめていた。剥き出しの骨の牙を打ち鳴らし、腐った前足が宙をもがく。


 令嬢の顔に絶望がよぎる。

 徐々に指先の力がゆるんでいくのを感じた。


(こんなところで終わってしまうの……?)


 己の非力さが恨めしくて、また涙が出てくる。


 こんなことが前にもあったと、脳裏に過去の情景が広がった。二度目の走馬灯か、幼いころの自分の姿が見える──愛に飢え、華咲くことを夢に見ていた、か弱き少女が。


「……だ……れ、か──」


 フィオナは、呼んだ。

 記憶の深いところ……いつもそばにいてくれた、あの懐かしい影を。

▼気に入ったエピソードには、ぜひ【リアクション】をお願いします。執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ