ダンジョンが出来ました!?
『ようこそ!ダンジョンへ』
そんな荒唐無稽なセリフが頭に響いた。
金曜日の朝は、そんな始まり方だった。
『ダンジョン第一号入場特典が贈られます』
『ギフト【鑑定眼】が贈られました』
はいっ!?
『ダンジョン初回入場特典が贈られます』
『ギフト【インベントリ】が贈られました』
何それ!?
『このダンジョンに名前をつけてください』
名前?
ダンジョンに名前!?
『このダンジョンに名前をつけてください』
うわっ、付けるまでリピートするの!?
えーっと、名前…
自分の名前とかはつけたくないから、秘密のダンジョン?シークレット?内緒?
私のダンジョンってことでいいのかな?
プライベート?プライベートダンジョン?
でも、せっかく?だから親の名前とか使っちゃおうかな。
もういないし、元々は親の家だしね、ココ。
母親の名前が、恵でしょ。
父親の名前が、範人でしょ。
ノリヒトだけどハントって読ませよう。
だからメグミハント。
で、どうかな?
「メグミハントダンジョン」
『メグミハントダンジョンと名付けられました』
『ダンジョン命名特典が贈られます』
『ギフト【ステータス】が贈られました』
『称号【ダンジョンの所有者】が贈られました』
ステータスって?
って言うか、称号!?
ダンジョンの所有者!?
何それ!?
『ステータスを開いてください』
ステータスを開く?
どうやって?
「ステータス」
呟いてみた。
カシュッって、目の前に何か出た。
ビックリした!
モニター?スクリーン?
何これ?
これがステータス?
緑川蓮
36歳
レベル0
体力 360
魔力 720
敏捷 36
物理攻撃 72
物理防御 144
魔力攻撃 360
魔力防御 540
運 3
えーと?
どう判断すればいいのかな?
運の数値おかしいくらいに低くすぎない?
3、って…
確かに私は36歳の緑川蓮だ。
見た目で言えば、黒髪ストレートの前下がりボブだ。
大学の頃からずっとこの髪型のままだ。
しかも1度もカラーせずにここまできてしまった。
もうすることはないだろう。
で、赤縁メタルフレームのメガネをかけている。
まぁ一言で言えば地味な見た目だ。
コンタクトにしたら?と言われることもあるけれど、メガネで通してる。
メガネ好きなのもあるけれど、そもそもコンタクトこわいじゃない?
何よ、目にモノを入れるって。
無理よムリ。
私、緑川蓮はそんなアラフォーである。
私は、親と住んでいたこの一軒家に今は1人で住んでいる。
中学2年の時に母が、脳出血で倒れてそのまま目覚めることはなかった。
仕事しか出来ない父と暮らすためには、ひとり娘である私が家事をやらなければならなかった。
中学生の私、よく頑張ったと思う。
幸い父は生活費はキチンと出してくれていたし、高校も大学も学費を出してくれた。
ありがたいと思う。
ホントに家のことは何もできなかったけど…
その父も一昨年、膵臓癌であっという間に亡くなってしまった。
それから、1人で暮らしている。
恋人はいたこともあったけれど、中学から家事をやっていたからか、所帯染みていると言われ、お袋みたいでムリと振られることがしばしばしばしば………
そんなんだったから、ここ何年かは気楽におひとり様を満喫しようと決めていた。
それなのにこんなことが起こるなんて…
時間は少し遡る。
目覚ましが鳴って、ムリヤリ意識を覚醒させる。
今日頑張れば、明日は土曜日だから2日間休める。
なんとかあと1日乗り切ろうじゃないの。
そう思って起きたはずだったんだけど?
でも私まだ寝ぼけてるのかな?
顔は洗って、朝食食べるところだったはずよね?
今日はトーストの気分だったから、台所の収納庫から食パンを出すつもりだったのよね。
家の収納庫は、大きめで初めから作りつけてある。
壁の高さ全てが扉になっている。
母の自慢の収納庫だ。
キッチンパントリーよ!
って言ってたのを思い出した。
そんな洒落たものではない気がするけどね。
けど、扉を開けたら母の自慢の収納庫は何もなくなっていた。
はっ!?
収納してた食べ物は!?
棚は!?
えっ!?
なんで何もないの!?
しかもなんか奥が見えないんだけど?
改装とかしてないわよ?
なんで広くなるのよ!?
収納庫の電気のボタンは、今までと同じ場所にあったので押してみた。
電気はついた。
ついたけど、目の前にはものすごく広い空間がある。
やっぱり私寝ぼけてる?
恐る恐る収納庫に足を踏み入れると、機械音みたいな声なのに、軽快な口調で言われたのよ。
『ようこそ!ダンジョンへ』
って…
そして、冒頭に戻る…