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雨宿り
「……ね、こうして雨宿りするの去年もあったよね」
「覚えてた?」
「うん。なんか……嬉しかったんだ、あの時遥斗がいて」
紗月は照れたように笑いながらそう呟いた。
その瞬間、遥斗の心臓が跳ねた。
きっと今のはほんの少し本音が混じっていたかもしれない。
紗月に言いたいことはたくさんあった。
――もっと君のことを知りたい。
――もっと隣にいたい。
――もっとたくさん話したい。
でも遥斗はその素直な感情が言えなかった。
「紗月は……最近、勉強忙しい?」
紗月の『嬉しかった』という言葉にはなんの反応も出来ないまま
沈黙を恐れて出た言葉が『勉強忙しい?』というよくある質問だった。
「うん。夏から塾も増えるから……ちょっと大変かな」
「そっか……」
また紗月に会えなくなるのか……
遥斗の心にそんな不安と寂しさが浮かんだ。