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プロローグ
春になると、ふと思い出す光景がある。
あの日の雨。
濡れた舗道。
東屋の下で並んだふたりの背中。
話した言葉よりも、言えなかった言葉の方が多かった。
ほんの少しの距離が、やけに遠く感じた。
どうしてあのとき、もう一歩近づけなかったんだろう。
どうして、胸の奥にしまったままだったんだろう。
――たぶん、怖かったんだ。
君との関係が変わってしまうことが。
今のままじゃ、きっと届かないことが。
それでもあの雨宿りの日からずっと、君のことが心から離れなかった。
季節が巡って、春が来て。
卒業して、少し遠く離れても。
今ならもう迷わない。
だって次に会うときは――もう「君の隣」にいる自分でいたいから。