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『秘密のエグゼクティブ・ラブ』〜社長、恋してはいけませんか?〜  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
『その隣にいる意味 ― 41歳、社長と夫と、私たちの未来へ。』
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■第9話「わたしが“わたし”である理由」



秋の気配が深まり始めた夜、オフィスの灯りはひとつだけ、静かに残っていた。

社長室の窓際、美咲は薄手のカーディガンを羽織り、街の灯を見下ろしていた。


会議での「続投宣言」から3日。

社内は少しずつ活気を取り戻し、彼女の決断に拍手を送る者も増えてきた。だが、その反動もまた感じていた。


“あの歳まで現場にいる意味は?”

“後進に譲る選択肢もあるのでは?”

“女性としてどう生きたいのか、社長として突き進むべきなのか――”


仕事を終え、残っていた高梨有紗がドアをノックせずに入ってくる。


「……あ、いた。まさかまだここにいるとはね」


「……ちょっと、整理したくて。頭の中も、心の中も」


「……美咲。社長って、寂しくなる肩書きよね。トップに立った人しかわからない、独特の孤独」


有紗が静かに言葉を投げかける。

美咲はうなずいた。


「でも……それと引き換えに、“自分で決められる”という自由もある。だから、私はまだここに立っているの」


「……じゃあ、その“あなた”は、肩書きを失ったらどうなるの?」


その問いに、美咲は数秒の沈黙の後、ゆっくりと答えた。


「きっと、私は“妻”にも、“母”にも、“女”にも戻れる。けれど、“わたし自身”ではいられなくなる気がするの。……社長という役割の中で、私は“私”を探し続けてきた。だから、今もまだ走っていたいのかもしれない」


有紗は笑ってうなずく。


「……あんたらしい答えね。じゃ、私も引き続き、その“私”についていくわ」



その夜――帰宅すると、家はもう子どもたちの寝息で満たされていた。


キッチンには、悠真が温かい紅茶を入れて待っていた。


「お疲れ。……遅かったね」


「ごめん。……少し、自分と向き合ってた」


「どうだった?」


美咲は黙って、ソファに腰を下ろすと、悠真にそっと寄り添うように身体を預けた。


「私、やっぱり“私”でいたい。社長でも、妻でも、母でもなく……“私自身”で、ちゃんと生きていたいの」


「うん。……俺も、それを守りたいと思ってる。君が“肩書き”じゃなく、“七瀬美咲”として輝いてる姿、誰よりも近くで見ていたい」


その言葉に、美咲の瞳が潤む。


「……ありがとう。ねえ……」


「ん?」


「……今夜だけ、“肩書き”も“名前”も全部忘れて、ただの“美咲”として、隣にいてもいい?」


「……もちろん」


静かに唇が重なる。

そのキスは、いつもより優しく、深く、長かった。


「んっ……ふぅ……悠真……」


ソファに身体を預けたまま、ふたりは静かに抱き合い、肌と肌が重なる感覚よりも、心と心が溶け合う時間を大切にしていた。


「明日からも、私は“わたし”でいたい」


「うん。だから、隣には“俺”でいさせて」


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