■第6話「夫婦で旅に出よう」
金沢――。
2人が出張で初めて肩を並べて歩いた、あの思い出の街。
子どもたちの感謝祭から数日後、美咲と悠真は静かに新幹線に乗っていた。
完全オフの2泊3日。
どこにも仕事を持たず、部下からの連絡もシャットアウト。
そして、2人だけの時間。
⸻
宿は山間の奥座敷、源泉かけ流しの露天風呂付き客室。
到着したその夜、夕食を終えたあと――
「……露天風呂、入ろっか」
「……うん」
浴衣の帯をそっと外す美咲の手。
そして、悠真も無言のまま服を脱ぎ、その肌と肌がようやく空気の中で触れ合う。
星が見える木の湯舟。
美咲の髪が濡れて、湯の表面に流れる。
悠真は背後からそっと抱きしめ、その背中に唇を寄せた。
「……あの時さ、出張でこの街に来て、駅前のホテルのロビーで、美咲が俺に言ったでしょ。“あなた、もう少し真面目に仕事して”って」
「……言ったわね。あなた、あのとき、本当に調子乗ってた」
「でもさ――それがきっかけで、俺、変わったんだ。あの一言がなかったら、たぶん、今の俺、いない」
美咲は振り返ると、悠真の頬に指を添えた。
「……あのときのあなたも、今のあなたも、全部好きよ」
目と目が重なり、湯けむりの中、ゆっくり唇がふれ合う。
「……美咲」
「なに?」
「結婚してからもう何年も経つけど――改めて、もう一度言わせて。……俺と、これからもずっと一緒にいてください」
「……それ、今さらプロポーズ?」
「うん。でも、大事なことって、何度言ってもいいでしょ?」
美咲は笑って、首をふった。
「……ええ、もちろん。これからも、社長としても妻としても……全部、よろしくお願いするわ」
そして、もう一度、長く、深いキス。
「んっ……ぁ……ふふ……」
やわらかな吐息が夜風に溶け、2人の身体は自然と密着していく。
お湯の中、互いの肌を指先で確かめ合いながら、声にならない想いが交わされる。
「……悠真、触れて。ちゃんと、今の私を」
「美咲……綺麗だよ……ほんとに」
そのまま湯から上がり、濡れたままの身体を浴室の端に寄せて、バスタオルも取らず、裸のまま――抱きしめた。
肌と肌が熱を伝え、心の奥で繋がる。
「んっ……ん、ん……はぁ……っ……」
吐息の合間、美咲の手が悠真の背中に回り、ぎゅっと抱きしめる。
「あなたがいるから、私……戦えてるの」
「俺も、君がいるから、生きていられるんだよ」
その夜、2人は裸のまま、ベッドに戻ることもなく、湯の縁に身体を預けながら――
何度もキスをし、抱き合い、言葉を交わし、愛を深めていった。
そして最後、美咲が囁いた。
「……じゃあ、10年後も、もう一度プロポーズしてくれる?」
悠真は笑って、指を絡めながらこう言った。
「もちろん。その時も……ちゃんと、キス付きでね」




