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『熱海で過ごす、家族10人の“おかえりなさい”旅行』



七瀬家にとって、この数年は怒涛の日々だった。

8人の子どもを育てながら、社長と取締役という責任ある仕事を両立し続けたふたり。

そんな美咲の社長復帰祝いを兼ねて、今回の旅行は計画された――


場所は熱海の、家族連れに優しい高級旅館。

2泊3日、10人分の有給休暇を取得しての大旅行。


「……ここが今日泊まるところ? ひろ〜い!」


「うわぁ、お風呂もでっかい〜!」


子どもたちのはしゃぐ声が旅館に響き渡る。


チェックインを済ませた後、家族全員で豪華な昼食バイキングへ。

特に朝食の豪華バイキングは子どもたちに大人気で――


「ママ、ぼくオムレツと納豆とクロワッサン食べていい?」


「ねぇ! 目玉焼きも取ってきたの! ママも食べて!」


と、トレイの上はまるで食の宝石箱。

そんな子どもたちの姿を見ながら、美咲と悠真は穏やかに微笑み合っていた。



夕食後、貸切の混浴温泉へ。

この旅館では、家族専用の混浴露天風呂が予約制で設けられていた。


脱衣所で服を脱いで、バスタオルを巻いて湯に入ると、

天然の湯けむりの中、夜風が心地よく頬を撫でた。


「わー! ほんとにおっきい〜!」


「きもちいぃ〜!」


子どもたちは大はしゃぎだったが、やがてふたりの様子を察したのか、

長男の翔真と長女の紗良が静かに声をかけた。


「ママとパパ、ちょっと話したそうだから、こっちでみんなと遊んでるね」


「あっちに小さい温泉プールあるし!」


そう言って、8人の子どもたちはそっと移動していった。


湯のなか、静かに寄り添うふたり。

その瞬間――悠真が、湯の縁に置いていた小さな箱を取り出す。


「……実は、これ。ずっと前から準備してたんだ」


美咲が手にすると、中には3つのアイテムが。


光沢のあるネックレス。シンプルかつ上品な高級財布。そして、繊細に彫金された指輪。


「社長復帰、おめでとう。そして、母親としても、妻としても、本当にありがとう。

子育ても仕事も、ここまで頑張ってきてくれて、心から感謝してる。これからも、よろしくね」


その瞬間、美咲の目に涙が浮かぶ。


「……こんなに頑張ったの、あなたと一緒だったから。ありがとう。……ありがとう…っ」


言葉が続かず、美咲は悠真の胸に顔を埋め、静かに泣いた。


そして、彼女の涙をそっと拭ったあと、

悠真は美咲の唇に、強く、甘く、深くキスをした。


静かな湯けむりの中で――

長く、愛おしさが溢れるほどに、唇を重ね続けるふたり。


「……んっ、悠真……ん……っ」


微かに漏れる声が、夜風に溶けて消えていく。


少し離れた温泉の奥から、子どもたちの声が聞こえる。


「ねえねえ、もうそろそろ出る?」


「まだパパとママの時間でしょ」


「だいじょうぶだよ。あれは“特別”だから」


翔真と紗良は、きっと大人のふたりに必要な時間を、

もう自然と理解していたのかもしれない。



夜の客室。

全員で布団を敷き詰めて、川の字どころではない賑やかな寝床。


「楽しかったね〜!」


「ママ、おやすみ〜!」


「パパ、また明日も一緒に入ろうね!」


それぞれがそう言って布団に潜りこむ。

美咲は、手元に届いたネックレスをそっと胸元にかけながら――


「……ありがとう、悠真。これが、私のいちばんの幸せかも」


悠真はその隣で微笑んだ。


「俺も。君がいて、子どもたちがいて――

“社長”も“仕事”も、全部大切だけど、

やっぱり俺は、“家族”ってものに救われてる」


そう言って、美咲の額に、もう一度優しくキスをした。


その夜、熱海の空の下で――

10人の“家族”は、心からのぬくもりに包まれていた。



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