第9話『社長復帰と、子どもたちの小さなサプライズ』
美咲の社長復帰から数日――
社内にはピリッとした空気と、どこか浮足立ったムードが混在していた。
新入社員たちは「これが本物の七瀬社長…」と噂をささやき、
中堅社員たちは再び彼女の采配を直に受けることに静かな緊張を漂わせる。
そして何より、彼女の直属の役員チーム――副社長の涼子、専務の広瀬、常務の古賀――は、
どこか安心したような眼差しで、再びトップに立った美咲を見つめていた。
「さて…じゃあ、ここからが“私の仕事”よね」
社長室にて、美咲は一度深呼吸をしてからデスクに向かった。
その日の午後、資料を届けに来た悠真と、
ほんの数秒目を合わせて微笑むだけで、互いにすべてを理解し合える――
「おかえり」と、言葉にはしなくても。
*
その夜――
七瀬家のリビングには、いつもとは少し違う空気が漂っていた。
「ママ、おかえりなさい会、はじまりまーす!」
大きな掛け声とともに、子どもたち8人が一斉に並ぶ。
手作りの紙の花冠、パステル色のバナー、折り紙で作った“社長デスク”まで。
翔真が進行役として前に出る。
「ぼくたちは、ママが帰ってくるのをずっと待ってました。ママが頑張ってるの、知ってるから…これ、サプライズ!」
紗良と詩音が一枚の大きな模造紙を広げる。
そこには――**「ママへ おかえりなさいの手紙」**と書かれ、子どもたちひとりひとりの絵とメッセージが添えられていた。
「翔真より。ママ、ずっとかっこいいよ」
「律真より。また一緒に走ろうね」
「紗良と詩音より。ママの笑顔が好き」
「結翔と大地より。会社も家も、がんばっててすごい」
「葵と澪より。だいすき!おかえり!」
美咲はその場で涙をこらえきれず、ひとりひとりの名前を呼びながら頬にキスをした。
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
悠真もそっと、美咲の肩に手を添えて微笑む。
「……家でも、会社でも。あなたは、ちゃんと帰ってくる人だって、みんなわかってるんだよ」
*
その夜。
子どもたちが寝静まったあと、夫婦だけの時間が戻ってきた。
寝室の灯りを落とし、美咲はソファに腰掛けた悠真の元へ静かに歩み寄る。
「……今日は、嬉しかった。でもね……一番のご褒美は、あなたの“おかえり”のキス、かも」
「なら……いっぱい、あげなきゃだね」
ゆっくりと顔を寄せ、
甘くて、長くて、深くて――この5年と、これからの時間すべてを込めたキス。
「……明日も頑張れる。あなたがいるから」
「俺も。あなたがいるから、仕事も、父親も、全部頑張れる」
今夜のキスは、ただの愛情じゃない。
尊敬と、信頼と、未来への約束。




