第6話『家族と夢と、夜のお礼』
春の終わり、初夏の気配が近づくある日――
七瀬家の長男・翔真が通う小学校では、**全校合同の「未来フェスティバル」**が開催される予定だった。
「子どもたちの“夢”を形にするイベントにしたい」
その言葉を口にしたのは、悠真だった。
会社勤めをしながら、子どもたちの行事にも本気で関わりたい――
そう願った悠真は、PTAの役員に立候補し、数ヶ月前から深夜に資料をまとめたり、演出プランを練っていた。
昼は会社の業務。夜は自宅でイベントの進行台本と格闘する日々。
それでも――彼は一度も弱音を吐かなかった。
そして、迎えた本番の日。
ステージに立った翔真、律真、紗良、詩音、結翔、大地、葵、澪の8人の子どもたちは、堂々と自分の夢を語った。
「僕は、お父さんみたいに頼れる人になりたいです!」(翔真)
「私は、ママみたいに会社も家族も守れる人になります!」(詩音)
観客から大きな拍手と涙。
保護者席で見守っていた美咲の頬には、静かに涙が伝っていた。
イベントが終わった数日後。
会社の重役会議で、ある報告が読み上げられた。
「今回、PTA・地域連携を主導した橘主任の“未来フェスティバル”が全国表彰を受けました」
どよめきの中、美咲社長はわずかに微笑みながら一言。
「……やったわね、悠真」
会議後、美咲は秘書に「5分だけ、誰も入れないように」と指示し、
社長室に悠真を呼び寄せた。
「おつかれさま。あのイベント、私も誇りに思ってる」
「……ありがとう。でも、子どもたちが頑張っただけで、俺は…」
「……今日は謙遜禁止。あとで、ご褒美あげる」
「ご褒美……?」
「うん。今夜、お風呂……一緒に入ろうね。ゆっくり、二人で」
社長室にほんのり甘い空気が漂った。
*
その夜、全員がカレーを食べ終え、子どもたちはそれぞれ布団へ。
「ねえ、今日はゆっくり眠れる?」
「……眠れるけど、ちょっとだけ――起きてて?」
バスルームから湯気が漂い、二人は久しぶりに“夫婦だけの時間”を取り戻していた。
悠真が先に湯船へ入り、美咲がその背中をそっと流す。
「本当に、筋肉増えたよね」
「またそれ? じゃあ……お礼に、洗ってあげようか?」
「ふふ、お願い。優しくね?」
互いの身体に触れるたび、心がふわりとほどけていく。
身体を洗い合い、泡を流しながら――
ふと目が合った瞬間、静かにキスを交わした。
「……今日も、あなたのおかげで家族が輝けた。ありがとう」
「こっちこそ……あなたがいたから、頑張れた」
夜更け。
ベッドの中で静かに寝息を立てる子どもたちの傍ら、
美咲と悠真は肩を並べて、もう一度深くキスをした。
長くて、甘くて、静かな――でも確かに“愛している”と伝わるキス。
「……ずっと、ありがとう」
「……ずっと、隣にいるよ」




