第10話:ここから、また始まる
月曜の朝。
いつものように朝食を囲む七瀬家では、子どもたちが元気に声を上げていた。
「ママ、今日から会社行くの?」
「うん。でも帰ったらみんなの大好きなカレー、作るからね」
そう言って笑う美咲に、8人の子どもたちは「がんばってー!」と一斉に声をそろえた。
悠真もスーツの襟を直しながら、彼女に目を向ける。
「準備は?」
「ばっちり。あなたのネクタイみたいにね」
「……そりゃ、心強いな」
ふたりは軽く笑い合い、
そして玄関の前で、誰にも見られないように小さなキスを交わした。
*
社長室の扉を開けると――そこは、以前とまったく変わらぬ景色だった。
だが、美咲の心には確かな“再スタート”の気持ちがあった。
「……戻ってきたわ」
誰もいない室内でつぶやいた声は、静かに空気へ溶けていく。
やがて、エントランスホールには数百人の社員が集まり、
復帰のスピーチが始まろうとしていた。
壇上に立つ美咲の姿に、ざわめいていた空気が静まり返る。
「おはようございます。社長の七瀬です。
……このたび、長期間の休養をいただいておりましたが、本日より復職いたします」
静かな口調で、ゆっくりと語る。
「この2年間、代行として務めてくださった古賀結花さん、そして役員・社員の皆さんに、心から感謝いたします。
私の不在を支え、会社を守ってくださったこと――本当に、ありがとうございました」
そして、美咲は微笑んだ。
「……これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
私は、変わらず“ひとりの経営者”として、
そして“ひとりの母”として、全力で生きてまいります」
拍手が一斉に沸き起こった。
結花もそっと微笑みながら拍手を送り、
佐伯も泣きそうな顔でうなずいていた。
副社長の涼子は最前列から手を振り、
専務の誠一は静かに目を閉じて頷いた。
常務の古賀もまた、小さな拍手とともに「やっぱりあの人しかいない」と心の中でつぶやいていた。
そして――壇上の脇から、取締役として悠真が彼女を見つめていた。
誰も知らない。
この“社長”と“社員”の間にある、深く、強く、温かな絆を。
けれど、それでいい。
「……さあ、仕事始めましょう」
美咲が社長室に戻った時、
机の上には一輪の花と、1枚のメモが置かれていた。
「おかえり、社長。
あなたがここに立つ姿を、僕はずっと夢見ていた」
――悠真
美咲はそっと花に触れ、ふと笑みをこぼす。
そしてドアを開け、通常業務へと戻る。
社員たちの声が飛び交うオフィスに、彼女のヒールの音が響く――
ここからまた始まる。
愛と仕事と、家族と私。
物語は、止まることなく続いていく。
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