第8話:ただいま、私の居場所
――晴れ渡る空の下、
退所当日の朝。美咲が荷物を手に施設の玄関に出ると、
そこには、ふわりとした白のワンピースに身を包んだ涼子の姿があった。
お腹はもうぺたんこに戻っていて、少しだけ疲れた顔。
でも、何よりも――“母としての強さ”がその笑顔にあった。
「……あんた、来るなら連絡くらいしなさいよ」
「言ったら断るでしょ。だから、サプライズ」
そう言って、涼子は笑った。
そして、一歩だけ前へ出て、美咲の頬に――そっと、感謝のキスをした。
「ありがとう。
あんたががんばってきた分、私も母としてちゃんと産めた。
だから今度は、あんたが“帰る番”。社長としても、母としてもね」
その言葉に、美咲は目を潤ませながら、涼子を抱きしめた。
「……うん、帰るよ。みんなのところへ」
*
玄関を出て、車に揺られながら、
美咲の胸の奥はじんわりと熱くなっていた。
そして――自宅の玄関。
「……ただいま」
そう呟いた瞬間、ドアの向こうから一斉に聞こえた。
「ママぁぁぁぁっ!!」
子どもたち8人が一斉に飛び込んできた。
誰ひとり順番を守らず、でもそれがまた愛しくて――
「翔真! 律真! 紗良! 詩音! 結翔! 澪! 葵! 大地!……みんな、大きくなったね」
泣きながら笑う美咲に、子どもたちが一人ひとり抱きついてくる。
「ママのこと、がんばってまってたよ」(翔真)
「てがみ、かいたんだよ!」(紗良)
「おふろ、パパとがまんしてたよ」(詩音)
「ママがいないとさみしいけど、ちゃんとねたよ!」(律真)
「おえかき、みてね!」(澪)
「ママのカレー、たべたい……」(葵)
「パパのごはんもおいしいけど……やっぱりママがいちばん」(大地)
「ママ、おかえりっ!」(結翔)
それぞれの言葉に、涙が止まらなかった。
「ありがとう……みんな、本当にありがとう」
一人ずつ、頭をなでて、頬にキスをしていく。
愛おしい命。かけがえのない宝物。
そして夕食は、子どもたちと悠真が作った“歓迎ディナー”。
「おかえりママオムライス」と書かれたケチャップの文字に、
美咲は、もう一度泣いた。
*
夜。
子どもたちが眠った後、美咲と悠真はリビングに残っていた。
「……戻ってきたんだな、俺たち」
「うん……やっと、ね」
ふたりは、ゆっくりと見つめ合う。
そして――
重なる唇は、深く、長く、甘く、熱かった。
「……っふ、ちょっと……いきなり、激しすぎ」
「もう、ずっと我慢してたから」
美咲の背中に手が回り、
スーツのボタンが外れ、柔らかな肌が露になる。
「……ねぇ、また少し大きくなってない?」
悠真が耳元で囁く。
「……うるさい、でも嬉しい」
美咲が、くすぐったそうに笑って、
そしてそのまま、唇を絡めた。
甘く、息が溶け合うように、そして深く。
リビングの明かりの下で、
ふたりは確かに“夫婦”として、ひとつになっていた。
その夜は、互いの肌もぬくもりも、何も隠さず――
静かに、深く、重なっていった。




