第7話:あなたがいたから、私は帰れる
静養生活も、ついに7か月目を迎えたある日。
美咲の退所が正式に決まり、復帰に向けた最終調整が始まった。
看護師との面談で言われたのは、たった一言だった。
「あなたは、ようやく“社長”ではなく“ひとりの女性”として過ごせましたね」
その言葉に、美咲はゆっくりうなずいた。
「……でも、もう一度、“社長”に戻りたいって思えたんです。
私には、帰る場所があるから」
*
同じころ――
副社長・相川涼子は、自宅のベッドで静かに呼吸を整えていた。
夜の陣痛が始まり、すでに10時間近くが経過していた。
「ったく……やっぱり最後も双子かい……」
痛みに顔を歪めながらも、彼女は笑っていた。
出産を見守るのは、立ち会いに駆けつけたパートナーの夫と、
そして涼子の母親だった。
「相川さん、あともう少しですよ……!」
助産師の声に、涼子は汗をぬぐいながら叫んだ。
「美咲っ……! あんたががんばってきた分、私も今っ……!」
そして――
元気な産声が、夜の病院に響き渡った。
「女の子です! そして……次、男の子!」
涼子の手には、小さな手がふたつ。
「……ようこそ、わが家へ。今日からあなたたちが、うちの希望よ」
彼女は、母としての笑みを浮かべながら、
そのままベッドで眠るように目を閉じた。
*
退所の前夜――
美咲のもとへ、悠真から一本の電話が入った。
「涼子さん、無事に産まれたよ。母子ともに健康。
……君にも、また背中を押された気がしたってさ」
「……よかった」
静かに安堵を吐き出すと、美咲は携帯を強く握った。
「悠真、ありがとう。……待ってて。明日、帰るから」
その声の先、悠真も微笑みながら答えた。
「おかえり、美咲。俺はずっと、君の椅子、守ってたよ」
夜が明け、玄関で靴を履いたとき、
美咲は振り返って療養施設を見た。
「あの頃の私がここにいた。
でも、明日からは――未来の私が、会社に戻る」
彼女は、堂々と歩き出した。
もう、社長としての足音を取り戻していた。




