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『秘密のエグゼクティブ・ラブ』〜社長、恋してはいけませんか?〜  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
休養・復帰編『肩書きよりも、あなたの隣』-そして2年後も…
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第1話:静かな別れ、静かな決意


春の訪れと共に、社長室の扉が静かに閉ざされた。


七瀬美咲――この企業を創り、育て、数千人の社員の頂点に立ち続けてきた彼女が、ついに“社長の座”から一時的に身を引いたのだ。理由は、体調不良。

原因は明確だ。8人の子どもを育て、トップの座に立ち続け、そして人知れず誰よりも働いてきた。誰もが「無理をしていた」と気づいていたが、それを口に出す者はいなかった。


代行を務めるのは、常務・古賀慶一の娘、古賀結花。若くして実力を認められた女性だ。

朝の重役会議後、彼女はひとり、取締役・橘悠真を常務室に呼び寄せた。


「橘さん。突然ごめんなさい。少しだけ、お時間いただけますか?」


「はい……何か問題でも?」


席についた結花は、迷うように言葉を選びながらも、穏やかな声で問いかける。


「……七瀬さん、大丈夫ですか?」


美咲を「社長」ではなく、「七瀬さん」と呼ぶその響きには、心配と尊敬、そして少しの親しみが滲んでいた。

彼女が“結花さん”と呼ばれることが多い中で、ふたりの関係性に緊張が走るわけではなかった。そこには真摯な想いがあった。


悠真は静かにうなずく。


「少し……働きすぎたんだと思います。社長職と、家のことと……8人の子ども。休める時がなかったんです」


そして、まっすぐに言った。


「だから今は、僕が働きます。彼女の分も、会社のためにも、子どもたちのためにも。……生活が止まらないように」


結花は、軽く目を伏せた。


「……強いですね。あなたも、七瀬さんも。でも――心は壊れやすいですから。どうか、背負いすぎないでください」


悠真は、わずかに目を細めて笑った。


「……ありがとうございます。僕が壊れる前に、彼女が“おかえり”と言ってくれるはずですから」


その言葉に、結花は少し微笑みを返した。


「……待っています。ふたりともが“戻ってくる日”を」



その日の帰宅後――

家では、子どもたちがママのいない夕食を囲んでいた。


翔真、律真、紗良、詩音、結翔、澪、葵、大地――


「ママ……まだ帰ってこないの?」


「だいじょうぶ? おなか、いたいの?」


「ねぇパパ……ママ、いなくてさみしいの……」


悠真は一人ひとりの頭をそっと撫でて、やわらかく言った。


「ママは、少しおやすみしてるだけ。きっとすぐ、また“ただいま”って言ってくれるから」


そして、みんなでそっと手を合わせて、


「ママが元気になりますように」――


静かに、8つの声が重なった。


家でも、会社でも。

“美咲がいない時間”は確かに存在していた。けれど、

彼女がいないことで、あらためて見えてきた“灯”もあった。


それは、愛。

そして、ふたりを支える無数の存在のやさしさ。


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