第10話:未来へ、ふたりで――そして、家族で
夜の社長室。
すっかり冷えた空調の中で、ふたりはブランケットひとつ、ソファで重なって眠っていた。
朝6時。まだ誰も出社してこない静寂のオフィスビル。
窓から差し込む淡い朝日が、肌をなぞるように照らしていた。
美咲が目を開ける。
隣には、まだ静かに寝息を立てる悠真の顔。
その肩越しには――互いに脱いだままの服と、昨夜の記憶がそのまま残っていた。
「……なんで、服着なかったんだっけ?」
「……結婚してるからじゃない?」
起き上がった悠真も、照れも焦りもなく、まるで自然なことのようにそう言った。
だが、ふたりとも完全に“全裸”だったことに気づいた瞬間――
「……って、これまずくない?」
「もう完全に遅いわよ。隠すにも無理がある」
しばし沈黙。
「……しょうがないわね、もう」
「うん……結婚してるし……ね?」
そして、ふたりは顔を見合わせて――
「ふふっ」
思わず笑いがこぼれた。
こんな姿でも笑い合える。
恥ずかしくもなく、ただ“夫婦”として自然にいられることが、何より幸せだった。
*
服を整えて、出社時間ギリギリでそれぞれのフロアへ戻るふたり。
誰にも気づかれないように社長室を片づけた後、エレベーター前でふと立ち止まる。
「今日は……行ってきますのキス、してくれる?」
「ええ。子どもたちにバレる心配もないしね」
静かに交わされる、朝の“いってらっしゃい”のキス。
それは、何年経っても変わらない、ふたりの大切な儀式。
その日、会社では通常通りのスケジュール。
だが、誰も知らない。
前夜、社長室で深く愛し合ったふたりが、今も同じ空間にいて、
同じ未来を見つめていることを。
*
夕方――
子どもたち8人が待つ家に戻り、再び日常が始まる。
「翔真! 律真! 紗良! 詩音! 結翔! 澪! 葵! 大地! 帰ったわよー!」
「ママーー! パパーー!」
リビングが一気に賑やかになる。
手を洗い、宿題を見て、夕飯の準備をして。
そんな“ありふれた毎日”の中で、ふたりは何度も目を合わせ、微笑み合う。
(この日常こそが、私たちの“未来”なんだ)
夜、子どもたちを寝かしつけたあと。
寝室で再びふたりきりになると、美咲がそっと言った。
「……今夜は、おとなしく寝ましょうね?」
「そのつもりだったけど……美咲がその目で見つめてくるなら、話は別だよ」
「……やっぱり、少しだけ“続き”する?」
静かに、お互いのスーツを脱ぎながら――
最後のキスは、今までで一番長く、熱く、そして甘かった。
「好きよ、悠真」
「……俺も、美咲」
唇が重なり、身体が重なり、心もひとつになる。
“社長”と“取締役”という関係の奥にある、
“妻”と“夫”としての絆――
それは、誰にも見せない。けれど確かに、ふたりの中に生きていた。
そしてまた、朝が来る。
子どもたちに見られないように、
互いにスーツを着て、「いってきます」のキスをして――
ふたりは、またいつもの会社へと向かうのだった。
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