第5話:8人の声、8つの色
土曜日の朝。
橘家のダイニングには、にぎやかな声が渦巻いていた。
「翔真、牛乳取ってー!」
「お兄ちゃん! さっきボクが使ってた消しゴム勝手に取ったでしょ!」
「結翔、朝からゲームは禁止!」
「詩音〜、髪結んで〜! これリボンどこ〜?」
「大地、それ食べ過ぎ! 朝から4枚目!?」
「葵、澪、ケンカやめなさい! お皿が落ちる!」
まさに“カオス”。
悠真はエプロン姿で朝食の後片付け。
美咲は洗濯機に2回目の洗濯物を放り込みながら、テーブル周りを指差して指示する。
翔真(中1)はしっかり者の長男。
みんなのまとめ役になろうと頑張るが、妹たちの自由さに毎日てんてこまい。
律真(小5)はマイペースで、音楽が大好きな静かな少年。
でもスイッチが入ると、詩音と即興ダンスを始めて家中がライブ会場になる。
紗良(小5)はしっかり者の長女で、母・美咲に似て表情がキリッとしている。
「将来は社長になる」と言っては翔真をライバル視している。
詩音(小3)は自由人。感情表現が豊かで、とにかく明るい。
リビングの真ん中で踊り出すこともしばしば。
結翔(小2)は天真爛漫な冒険者。どこにでも登りたがるし、何にでも手を出したがる。
澪(小2)はその双子の妹で、感受性が鋭く、動物と心で話せると信じている。
葵(年長)はおしゃまな女の子で、最近は“メイクごっこ”に夢中。
母の化粧ポーチを勝手に開けては美咲に怒られている。
大地(年少)は8人兄弟の末っ子。甘えん坊で、いつも「だっこ〜」と飛びついてくる。
「今日はお休みなんだから、静かに……」
「はーい!!」×8人分のバラバラな返事。
……数分後、静かになるわけもなく、
居間ではクッション投げ合いバトルが始まり、台所ではスプーンの取り合いが勃発。
それでも、全員が元気で笑っていて、家の中は熱を帯びていた。
*
「……なあ、美咲」
洗濯物を干しながら悠真がぽつりとこぼす。
「このまま10人目までいったら、どうする?」
「……まず、住宅ローン、見直すところからね」
ふたりは顔を見合わせ、笑った。
育児も家事も仕事も――確かに大変。
でも、それ以上に“毎日が特別”だった。
夕方、全員を連れて近所の公園へ。
兄妹入り乱れて鬼ごっこをしながら、美咲はふと、芝生に座ってその姿を眺めた。
(この子たちがいるから、私たちは頑張れるのよね)
誰かが泣いても、誰かがすぐ手を差し伸べる。
兄妹たちは互いにぶつかり合いながらも、確かに“家族”として育っていた。
帰宅後、食卓で全員が「いただきます!」と声を揃える。
その景色は――
どんな会議室よりも美咲にとって、意味のある“円卓”だった。
(この8人が、私たちの“人生そのもの”)
――その夜。リビングで寝落ちしかけた翔真を抱えて寝室へ運ぶ悠真の後ろ姿を見ながら、
美咲は心の中で、小さくつぶやいた。
「……うちの社長、世界一素敵よ」




