第7話 『翔真の“秘密”』
金曜の夕方、橘家のリビング。
子どもたちがテレビを囲んでワイワイと盛り上がるなか、
長男の**翔真**だけが、一人ソファの隅でゲーム機を握ったままうつむいていた。
それに気づいたのは、母である美咲だった。
「翔真……今日は元気ないね。学校、何かあった?」
「……ううん、別に」
口を尖らせて首を振るその表情に、“なにかある”と美咲はすぐに察した。
「パパに言いたいこと、ある?」
「……うん」
美咲は頷いて、キッチンにいた悠真を呼んだ。
*
夜、子どもたちがそれぞれ部屋で過ごす時間。
翔真と悠真はふたりでベランダに出て、缶ジュースを片手に並んで腰を下ろす。
父と息子、だけどまだ10歳。だけど、男として、何かを抱えていた。
「……パパ。僕、クラスで変って言われた」
「どうして?」
「兄弟が8人もいるの、変って。
“お前の家、おかしいよな”って。
なんか……笑われて……恥ずかしくなった」
悠真はゆっくりとジュースを置き、
翔真の頭を軽く撫でながら話し始めた。
「翔真。たしかに、8人兄弟って珍しいよな。
だけどな、それは“変”なんじゃなくて、“すごい”んだよ」
「……すごい?」
「そう。“誰よりも家族が多い”ってことは、
“誰よりも守るものが多い”ってことだ」
翔真は少し顔を上げる。
「守る……?」
「お前は、弟や妹たちの“最初の兄ちゃん”だ。
それってすごくカッコいいことだぞ。誰かが泣いてたら助けて、
誰かが困ってたら、声をかけて……」
「……でも、みんなに笑われると……嫌なんだ」
悠真は小さく笑って、ポケットからスマホを取り出した。
開いたのは、8人の子どもたち全員が写った家族写真。
「見ろよ、これ。
全員が笑ってて、幸せそうで。
この写真に写ってる“リーダー”が、お前だ」
翔真の目が、少し潤んだ。
「……僕、リーダー……なんだ」
「そう。パパもママも、お前のこと、誇りに思ってる。
だからな、堂々としてていいんだ。8人兄弟の“兄”って、なかなかいないぞ?」
翔真は小さく笑って、少しだけ胸を張った。
「……うん。じゃあ僕、もう逃げない。
僕の家族は、僕が守るんだもん」
悠真は頷き、力強く彼の背中を叩いた。
「それでこそ、俺たちの長男だ」
*
その夜――
翔真がリビングで小さな声で言った。
「……ママ、僕、家族が多いの、誇りだよ」
美咲は驚いて振り向いたが、すぐに微笑んで翔真を抱きしめた。
「ありがとう。……ママもね、それが一番の宝物だよ」
家族は多い。手も時間も足りない。
けれど――心は、あたたかさであふれている。
それが橘家の“ふつう”。




