第4話 『初めての8人連れ外出』
梅雨が明けた7月中旬、日曜日。
晴天の下、橘家は「家族全員での初めての外出」を迎えていた。
目的地は、都内の大型ショッピングモール。
映画館、フードコート、ゲームセンター、キッズパークに子ども服売場までそろった“ファミリーの聖地”。
「よし……行くぞ。みんな、名前を呼ばれたら“ハイ!”って返事な!」
悠真が号令をかける。
「翔真!」「ハイ!」
「律真!」「ハイ!」
「紗良!」「ハイ!」
「詩音!」「ハーイ!」
「結翔!」「……はい!」
「澪!」「ハイッ!」
「葵!」「ハー……ふぇ……」
「大地!」「ふぇぇ……(指しゃぶり)」
一番下の双子(第7・8子)はベビーカー。上の6人はリュックを背負って整列。
まるで小学校の課外授業に向かうような風景に、近所の人も思わず笑顔を向けた。
*
「ねぇパパ、あのアニメ観たいー!」
「ママ、お腹すいたー!」
「ねぇねぇ、こっちのお店も見ようよー!」
「赤ちゃん、泣いてるよっ!」
ショッピングモールに着いて10分。
案の定、全方向からの要求が殺到。
悠真は冷静にハンカチで汗を拭きつつ、瞬時にプランを立てた。
「よし、ママと下の4人はベビールームとお昼の席取り。
パパは上の4人連れて、フードコートのメニュー確認!」
「了解、主任。いえ、旦那」
夫婦の間に流れるコンビネーションは、
もはや“経営陣”に近い。
子どもたちの欲求と混乱を交通整理しながら、
なんとかお昼までの行程をこなした。
*
フードコート。
悠真は8人分の注文を抱えて戻ってくる。
「……ハンバーグカレー、うどん、ミニラーメン、お子様プレート……やっぱ多いな、これ」
「あなた、腕の筋肉ついたの、ここ数年の買い出しのせいでしょ」
「間違いない」
一斉に食べ始める子どもたちを眺めながら、
美咲は静かに笑った。
「ふたりで出かけてた頃が、嘘みたいだね」
「なつかしいな。美咲がスタバの新作頼んで、俺が一口もらおうとして怒られた日」
「……覚えてるの?(笑)」
「忘れるわけないだろ、俺の“初キス”のあとだったんだから」
「なによそれ、いまそんなこと言わないでよ」
*
昼食後は、ベビーカーを押しながらキッズパークへ。
6人がはしゃぎ、2人が眠る。
誰かが転んで泣き、誰かがトイレを漏らし、誰かがコーラをこぼす。
だが――夫婦は疲れた顔を見せなかった。
それよりも、“この瞬間を見逃したくない”という想いが強かった。
ふと、美咲がぽつりとつぶやいた。
「……うちって、変じゃないよね?」
「ん?」
「こんな大人数で、どこ行くにも目立って……だけど、これが私たちの“ふつう”なんだよね」
悠真はうなずき、ベビーカーに眠る澪を見ながら答えた。
「目立つかもしれないけど、誇れる“日常”だよ」
その言葉に、美咲は優しく笑った。
そして――そっと彼の手を握る。
まわりに人がいても、目立っても、
“家族”の形は、いつもそこにある。
それが、彼女たちにとっての“ふつう”なのだ。




