第2話 『パパ主任、家庭訪問を受ける』
6月のある平日午後。
TSグローバル本社にて、悠真は定時少し前に社長室のドアを軽くノックした。
「すみません、美咲……いえ、社長。今日は少し早く帰ります」
「……家庭訪問ね?」
笑いながらそう言った美咲の表情は、完全に“母”の顔だった。
「翔真と律真、先生との初対面……緊張するなあ」
「頑張ってね。パパ主任」
*
その日、橘家では双子の長男・翔真と次男・律真が小学校から帰宅し、落ち着かない様子だった。
「先生、本当に来るの? 家に?」
「ママ、僕の部屋、きれいにした方がいい?」
「パパ、スーツのままでいるの?」
「大丈夫。先生は、みんなのことを知りたいだけだから」
美咲がそう言うと、ふたりはちょっと落ち着いたように見えた。
やがて――チャイムの音が鳴る。
「こんにちは、担任の春日と申します」
30代前半の若い女性教師で、明るく親しみやすい雰囲気。
しかし、家に入ってから目にした光景に、目をまるくした。
「えっ……これ、全員……ご兄弟ですか?」
「はい。8人です」
「え、8人!? えっ……えっ!?」
リビングには、年齢も性格もバラバラな8人の子どもたちが勢ぞろい。
誰が誰の名前で、どの子が双子で、今何歳なのか。
先生は思わずメモを取り出して、整理し始めた。
「お父様は……会社員でいらっしゃいますか?」
「はい、一応。経営企画部で働いてます」
「社内では“主任”という立場で」
「……ご夫婦で、育児分担を?」
「うちは“完全タッグ制”です」
美咲の柔らかな笑みと、悠真の穏やかな口調に、春日先生は少しだけ首を傾げた。
どこか、夫婦の距離感が“ただの会社員夫婦”とは違って見えたのかもしれない。
「ちなみに……ご主人のご勤務先は?」
「ええと……TSグローバルです」
「えっ……社長と同じ……!?」
春日先生は、またも目を丸くする。
美咲が「偶然です」とさらりと流すが、微妙な空気が残った。
(……もしかして、このご夫婦、ただ者じゃない?)
春日先生の胸に、少しの違和感が残ったまま、家庭訪問は穏やかに終わった。
*
「どうだった?」
子どもたちが寝静まった夜。
ソファに並んで座る悠真と美咲。膝には各々の育児記録ノートと、仕事用タブレット。
「先生、びっくりしてた。8人って言ったら、もう“学校レベル”らしい」
「うん。でも……私たち、これが“ふつう”なんだよね」
「ふつう、だな」
互いに顔を見合わせて、ふっと笑った。
そこには、“秘密”を抱えながらも、堂々と家族を愛するふたりの姿があった。




