■ 特別編スピンアウト 『秘密の背中、支える者たち』 ――副社長・直属上司・専務・常務、それぞれの静かな覚悟
◆ 副社長・相川涼子の視点
――あの女が、橘悠真に席を代わってほしいと、小さく声をかけたとき。
(またか……でも、まあ……そう来るわよね)
私はため息ひとつ、席を立った。
社長としての顔を保ちつつ、恋する女としての顔を隠す美咲。
彼女のそんな“苦しさ”も“甘さ”も、私はずっと見てきた。
美咲が本当に“社長”になったときも、
結婚を決めたときも、出産の報告を受けたときも。
誰にも言えない苦悩を、隣でずっと見てきた。
夕食中、周囲の視線が集まるのを感じながらも、
私はあえて笑った。
「いやぁ、さすが社長。部下をちゃんと見てるのね」
冗談交じりの一言で、会話の方向を逸らす。
誰にも悟らせない。美咲の“心”を守るのも、私の仕事だ。
あの飲み会で、美咲が立ち上がったときも。
止めようとした社員の前に出て、私は笑って言った。
「私が代わりに対応しておくわ。彼女も、息抜きが必要なの」
そして彼女が消えた廊下の先を見つめながら、ただ一言。
「……ほどほどにね」
背中で見送るその心は――誰よりも、優しい嫉妬と、深い理解だった。
⸻
◆ 経営企画部課長・高梨有紗の視点
あのふたりが“特別”だと気づいたのは、
ある日、何気ない報告書の受け渡し時だった。
目線。間合い。言葉の選び方。
そういうのは、部下を長く見ているとわかる。
特に、悠真のような真面目な男が“わずかに緩む”瞬間は――目立つ。
私はあえて、何も言わなかった。
仕事に支障がない。むしろ彼は、社内でもっとも正確で、冷静で、信頼できる存在になっていった。
そして、社長――美咲の眼差しも、変わっていた。
社員旅行では、ほかの誰よりも周囲の目線に気づいていたと思う。
だからこそ、私はあえて“席近くに座る”ことで、その視線を散らした。
飲み会のときもそう。
社長がふっと立ち上がり、悠真が席を外したとき、
私は周囲の数人とさりげなく会話を展開し、話題をずらした。
……あのふたりは、会社を、家族のように愛してる。
だからこそ――私は、会社の家族として、ふたりを守る。
言葉にはしないけれど、それが私の“仕事”。
⸻
◆ 専務・広瀬忠義の視点
私は会社の数字と向き合うのが仕事で、
社員の恋愛には一切口出さない主義だった。
だが、ある日――
副社長から静かにこう言われた。
「社長と橘主任のこと、あなたも理解してくださると助かります」
……最初は信じられなかった。
社長と、主任? そんな“分別のないこと”があるのか?
だが実際、2人の働きぶりを見て、私は考えを変えた。
社長は、誰よりもこの会社を守ってきた。
橘もまた、私が見てきた中で最も“中身のある男”だ。
飲み会のあの夜。
私は何も言わず、常務とともに酒を口にした。
社長が立ち、空気が変わる瞬間――気づいてはいた。だが黙っていた。
「……橘は、バカ正直でいい奴だ」
常務がぽつりと呟いた。
「同感だ」
それが私の精一杯の“肯定”だった。
⸻
◆ 常務・古賀慶一の視点
誰よりも“空気”を読むのが、俺の仕事だ。
人の表情、声色、目線の揺れ――
だからこそ、あの2人の関係には、早い段階で気づいていた。
社長が橘をよく見ているのは、ただの“上司”の目じゃなかった。
だから俺は一貫して、“何も言わない”を選んだ。
信頼とは、言葉ではない。
黙って守ることもある。
社員旅行でのあの視線。
飲み会でのあの沈黙。
副社長が止め、彼女が立ち去る。
その瞬間、俺は涼子に目線で頷いた。
「任せる」と。
全員が少しずつ“支える”ことで、
この会社は、愛で成り立っている。
社長と主任。
ふたりが築いた“家族”を、俺たちは知っている。
だから、今日も――言わない。
ただ、背中を押す。それだけだ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




