『家族、またふたり増えました。』 ―「社長として、そして母として、あなたと共に」
梅雨入りを目前にした、ある初夏の朝。
いつも通り目覚め、ふたりで支度をし、子どもたち6人を見送ったあと。
ふと、美咲は洗面所で鏡を見つめていた。
「あれ……少し、遅れてる」
手元のカレンダーと体調の違和感。
思い当たる節がある。いつもの直感は、外れたことがない。
しばらくして、リビングから悠真の声が響く。
「……美咲?」
「……出た。陽性……また双子、かも」
その一言で、悠真の顔が一瞬にして引き締まった。
だが次の瞬間、彼の口元に笑みが浮かぶ。
「すごいな……これで8人目……!」
*
昼過ぎ、副社長室にて――
「えっ、また妊娠? ……ていうか、何人産むつもりなの?」
涼子は書類を置きながら、苦笑交じりに呆れる。
だが口元は緩んでいた。
「……で、また社長代行をお願いしたいんだけど」
「はいはい、もう慣れてるわよ。そろそろ私が“社長の補佐育成担当”になった方がいいかもね」
*
その週末、美咲は入院準備を整え、母に6人の子どもたちを預ける。
悠真は会社で仕事を終えたあと、病室へ向かい、
他の妊婦たちと和やかな会話を交わした後――
病室にふたりきりになった美咲と悠真は、
誰にも見られない穏やかな時間の中で、そっとキスを交わした。
「……ありがとう、いてくれて」
「……俺のほうこそ、あなたがいてくれてよかった」
*
その夜――会社では残業組が残っていた。
経営会議の資料を調整する悠真に声をかけたのは、常務・古賀だった。
「……また、産まれたんだってな。何人産むつもりなんよ、ほんとに(笑)
でもまあ、無理はするなよ。お前が倒れたら奥さんが怒るぞ」
続いて、専務・広瀬も背後からひと言。
「これで8人目か。いやぁ、凄いな大家族(笑)
主任のまま終わるつもりないんだろ? 昇進、頑張れよ。
でも、家族も大事にしろ。無理するな」
さらに副社長・涼子が近づいてきた。
「で、今回は帝王切開? それとも……」
「いえ、経腟分娩です」
「え……なにそれ。普通に産むやつ?」
「……はい、自然に出産する方法で――」(医学的に説明中)
涼子は途中から目をそらしながら「あーもう、聞かなきゃよかった」と小声で呟いた。
*
9ヶ月後――
産声が、分娩室に響いた。
悠真は手を握り、美咲の額を拭い、声をかけ続けていた。
「頑張ったな……ありがとう、美咲」
生まれたのは、男の子と女の子の双子。
結翔と澪に続く、第7子・第8子。
医師に抱かれたふたりの赤子を見つめながら、
美咲は微笑んだ。
「また……家族が、増えたね」
*
数日後、自宅。
子どもたち6人は、まだ出産のことを知らなかった。
玄関で美咲が赤ちゃんを抱いて現れた瞬間――
「えっ!?」「ええええ!?」「ほんとに!?」「また双子!?」
翔真「パパ……ママ、すごいね……」
律真「赤ちゃん、かわいい……」
紗良「ママに似てるね」
詩音「でも、泣きそう……」
結翔「ぼく、おにいちゃんまたふえたの?」
澪「みんなで、なかよくする……!」
家中が笑顔と泣き声で満たされた。
*
そして数ヶ月後――
美咲は再び社長として戻った。
全体朝礼で、いつものように淡々と、だがどこかあたたかく。
「……私が不在の間、皆さんの努力に感謝しています。
この会社が前へ進んでいたのは、私ではなく皆さんのおかげです。ありがとうございます」
その隣で――
悠真は変わらず、主任として資料を持ち、静かに立っていた。
それが、ふたりにとっての“いつも通り”だった。




