第0話:すべては、社長室から始まった。
まだ、橘悠真が入社して半年ほど経ったころ――
営業部の一社員として、ただひたすら日々の業務に向き合っていた。
ある日、社内の資料プレゼンで偶然呼ばれたのは、社長室。
そこにいたのが、当時まだ30代前半にして、10万人を率いるカリスマ社長――七瀬美咲だった。
「あなたが、橘さんね? 書類、よくまとめてある。……ふふ、真面目なのね」
その時に見た、美咲のスーツ越しの凛とした姿と、
ふとした瞬間に見せる、どこか“孤独”を滲ませる表情が、
悠真の胸の奥に焼き付いた。
――この人は、ひとりで、戦っているんだ。
以来、橘悠真はどんな仕事にも「彼女の信頼を裏切らないように」と自分を奮い立たせてきた。
それは部下としての使命感であり、いつしか――ひとりの女性への憧れへと変わっていった。
そして数年後、
ふたりは距離を縮め、“秘密の関係”へと進んでいく。
けれど、その関係は決して公にはできないものだった。
彼女は社長で、
彼はただの社員で、
そして会社の未来を背負う者と、背負わせてはいけない者だった。
それでも――
「あなたが社長じゃなくても、僕は、あなたを選んでいたと思います」
そう言ったときの美咲の目に浮かんだ涙は、
この先どんな困難が待っていても乗り越えようと思えるほど、強く美しかった。
ここから始まる物語は、
**肩書きに縛られながら、肩書きを超えて結ばれたふたりの“真実の関係”**の記録である。
そして、その未来は――
『肩書きよりも、あなたの隣 ― そして、2年後も。』
として、ゆっくりと、けれど確かに続いていくのだった。