表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『秘密のエグゼクティブ・ラブ』〜社長、恋してはいけませんか?〜  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
スピンオフ集『エグゼクティブ・ベイビー』
13/55

第1章「はじめての夜泣き」


「……んっ……う、うあ……っ、あぁあぁあ!!」


午前2時16分。

都心の高層マンション、七瀬家の寝室に響くのは、赤ん坊の泣き声だった。


「……っ、ごめん、美咲……! 俺、行ってくる……っ」


ベッドから飛び起きたのは、父親になったばかりの橘悠真。

スウェット姿の彼は寝ぼけ眼でリビングへ走る。

そこで出迎えたのは、2人並んだ赤ちゃん用ベッド――そして、ふたりの小さな息子たち。


「翔真、律真……どっちが泣いてんだ? ……ていうか、ふたりとも泣いてる!?」


おむつか、ミルクか、暑さか寒さか、それともただの寂しさか。

子育て初心者の悠真には、まだ「泣き声の種類」がわからない。


一方、美咲もやや遅れて寝室から出てくる。

バスローブ姿に無造作な髪――かつては完璧なスーツ姿でオフィスを支配していた社長とは思えない姿だ。


「……起きてたのね、ごめん……」


「こっちこそ。交代でって言ったのに……」


「もう……3時間おきって、こんなにハードだったのね……」


ふたりは苦笑いを交わしながら、それぞれ一人ずつの双子を抱き上げる。


美咲の腕の中で、長男・翔真がびくびくと震えながら泣き、

悠真の腕では、次男・律真がミルクを求めて手をばたつかせている。


「よしよし、ほらミルクだよ……。飲もうね、律真」


「翔真……おむつ? 違う……。じゃあ、ママの声、聞きたいの?」


そう言って、美咲は自分の鼻先を赤ちゃんのほっぺにくっつける。


「翔真……大好きよ……。ママ、ここにいるわ」


その声に、びっくりするほど、翔真の泣き声がピタリと止まった。


「え、すご……。さすが“元社長”、赤ちゃんにもカリスマ」


「……バカ。もう“元”じゃないし、“ママ”よ。いまの私は」


そのままリビングで毛布にくるまり、ふたりは交互にあやしながら、小さな双子を寝かしつけた。


そしてようやく静けさが戻ったころ、悠真が美咲の肩にもたれる。


「ねえ……正直に言っていい?」


「ん?」


「会社で徹夜してたほうが、楽だったかもしれない……」


「それ、今、私もまったく同じこと考えてた」


ふたりは疲れきった顔で、声を殺して笑った。


でも――その目は、どこか満ち足りていた。


――翌朝。


眠い目をこすりながら、悠真が朝食を用意していると、美咲がふらっと現れる。


「……あのさ」


「うん?」


「今日、保健師さん来るの。予防接種と体重測定、お願いしてたでしょ」


「やば……俺、会社休み申請してない」


「いいの。育休中でしょ? 社内では“橘主任は家族の介護中”ってことになってるし」


「美咲……あのとき、“秘密のままでいいから、一緒にいて”って言ってくれてありがとう」


「こっちこそ。あなたがいなかったら、絶対潰れてた」


ふたりは朝のキッチンで、そっとキスを交わす。


その後ろでは――再び双子が泣き始める。


「……第2ラウンドか」


「よーい、スタート……って感じね」


ふたりは顔を見合わせ、また笑う。


それが、“エグゼクティブな夫婦”の、最初の育児バトルの朝だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ