「秘密と肩書きの、その奥で」
この物語の始まりには、恋も、甘さもなかった。
あったのはただ、背中で語るような凛とした孤独と、
その人の存在に心を動かされた、一人の若い男の小さな決意。
橘悠真は入社して間もないころ、ひとつの資料作成を任され、
その完成品を持って、突然“社長室”へ呼ばれた。
そこにいたのが、社内でも誰もが名を知る存在――
七瀬美咲、数千人を率いる若き女社長だった。
「……あなたが、橘さん?」
第一声は、それだけだった。
だが悠真の心には、そのたったひと言が、まるで雷のように響いた。
あまりに堂々として、静かで、整っていて、
それなのにどこか脆さと淋しさを感じさせる――そんな声。
社長という肩書きの下、
笑顔を見せながら、誰にも甘えられず、誰にも支えられない人間。
“この人は、一人で戦っている”
そう思った。そう思わされた。
それから数年、
橘悠真は、ひたむきに働き、誰よりも誠実に業務と向き合った。
彼女の目に、ただの「部下」以上の何かとして映る日が、来るかもしれないと思って。
――そしてその日が、静かに訪れる。
秘密の契約。誰にも言えない関係。
触れるたびに高鳴る胸の内と、誰にも見せられない甘い時間。
彼女の唇に触れたその瞬間から、
橘悠真の人生は、ただの社員ではなく、**“彼女を守る者”**として動き始めた。
だが、物語は甘いだけではない。
幾度の別れの予感、子どもたちとの日々、そして“肩書き”の意味。
ふたりが生きていくのは、
仕事と愛と家庭が複雑に交錯する世界。
それでも――
「肩書きよりも、あなたの隣」
それが彼の、そして彼女のたった一つの選択だった。
この物語は、誰にも見せられない恋から、
誰もが見守る家族へと続いていく、
ひとつの“真実の愛”の記録である。