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こうなるよね

作者: まい

 社畜のテンプレ転生。

 最終の電車内の座席に、ビジネススーツ姿で(ひど)くくたびれた男が座って……うなだれていた。


「もう、ヤダ」


 男がポツリと(こぼ)した本音は、他に乗車している人の誰にも聞かれることなく消える。



 この男は典型的なブラック企業の社畜だ。


 今回は()()()()()()()()早く帰れたが、大体が帰れず仮眠室……が空いていればラッキー。 普通は職場で雑魚寝の生活を(つき)単位でしている。


「限界だ。 自分の好きな事を何時間も、夜通しで出来ていた学生の、あの頃に帰りたい……」


 男の顔からは完全に活力が消え失せていて、感情すら無いまま目から、つー……と一雫(ひとしずく)の水が流れた。


 その涙すら、流れている事に当人が気付いていない。


「学生の頃に戻れるならいっそ、当時やってた泣きゲーの主人公も良いな。 極一部は過酷だけど、基本優しい世界だから」


 少しヤバい発言をするレベルに、だいぶ(まい)っているようだ。


 男の近くに座っていた乗客が少しズレているのを見ると、周囲に聞こえる程度に大きな声で喋った模様。


 そんな事も察せず、男はおもむろに胸を反らせて背を伸ばし、電車の窓ガラスに後頭部を当てる。


「あーー、本当にもうダメ。 なんか意識も遠くなってきた」


 周囲の乗客が、この人また変な事を言い出した。 なんて思いでスーツの男を白い目で見た。


 すると、スーツの男はゆっくりと目を閉じる所だった。


 これには周囲も大変な仕事してるんだなぁ。 なんて同情の気持ちも湧いた。




 が、そのまま十分とかずっとそのまま。


 肩すら動かず、生体反応(こきゅう)しているように見えなかったと気付いた人から、ざわめきが広がりだした。


 この人、死んでる。 と。





〜〜〜〜〜〜





「………………ん?」


 スーツの男は、電車内で目を覚ました。


 だが男からすれば、なにやら違和感だらけだった。


 最終電車に乗ったはずなのに時間が全く違くて空が明るい所だけでなく、外の景色がまるで違う。


 そもそも乗客すら全然違う。 それに、その乗客の着ている服装が自身も含めてなんか古い。


 古くてボロボロな服装って意味ではなく、まるで年代が違う服装なのだ。


 こう、何ていうか……そう。 男が学生時代に流行っていたセンスの服装だ。


 これから()()()が親の長期出張へついて行けない関係で、一時的に親戚でありヒロインでもある家へお世話になりに向かう泣きゲー(ギャルゲー)が発売された頃のような年代。


「…………ん?」


 男の記憶に、何か変な記憶がよぎった。


 ブラック企業? 社畜? ゲーム?


 色々混線している。


 この男は()()学生で、家庭の事情で親戚の家へ居候(いそうろう)しに行く所だ。


 そこになぜか、仕事に疲れた男の記憶が混ざっている。


 区別がつく交ざるではなく、区別がつかない位に混ざっている。


「…………………」


 ここまで考えて、男は頭を振った。


「あのゲームの主人公に転生して、前世の記憶が戻ってきたのか」


 そう結論づけた。


「あの地獄から、俺は逃げられたのか」


 そう嬉しくなった。


「しかも、あの青春の名作ゲームの世界の主人公に生まれ変わったのか」


 そう興奮した。 しかも個別ルートへ入らないと思い出せないような思い出まで、自分の過去として鮮明に思い出せる事で余計に。


 ので、周囲の乗客から心なしか距離をとられた。


「俺が、あの過酷な境遇のヒロイン達と関われと言うのか」


 そう目を輝かせた。



「…………やっちまった」


 転生に気付いてから2週間()つかどうかの頃に、男はガックリしていた。


 前世の実家の家族とか考えてる余裕がない位に動きまくっていた。


「シナリオやヒロインの秘密とかを知っているからって、ヒロイン達との過程をスキップしまくったら気味悪がられて、距離をとられた」


 救いは、世話になってる親戚の家のヒロインからはまだ普通に接してくれてる事と、ヒロイン達の過酷な環境になった原因のことごとくを取り除けた事。


 悩みを抱えるヒロインの悩みを解決し、ヒロインが過去に否定した自身の生霊を受け入れさせ、家庭不和も抱えた死病を持つヒロインには不和を解消して家族全員で手術をすれば助かると説得させ、人間に変化する動物ヒロインには優しくしすぎて警戒され。


 知っているからこそ、先回り先回りでやり過ぎた。


「ヒロインの親友とかのサブヒロインの心の傷にも簡単に踏み込んで、逃げられたし」


 大好きなゲーム世界だったので、はしゃぎ過ぎてやり過ぎて、色々アウトになったのだろう。


 いくら優しい世界だとしても、やり過ぎれば不審者扱いされる位には現代に極めて近い世界なのだから。


「マズった」


 この後どうなるかは誰も知らないが、少なくともゲームのシナリオは崩壊した。



 あ、過酷要素が個別ルートに入ってから家族の事故(命に別状無し)の主人公の親戚のヒロインには、家族の事故が起きたらどうなる?


 とか言って脅して、家族へ再三注意するよう仕向けたから、多分大丈夫だと気楽に思う男だった。


 その家でお世話になってる身分だし、こっちからも言うし、なんとか回避できるはずとも楽観している。



 ついでに学生に戻れたとしても、しかも泣きゲー主人公になれたとしても、思ったように青春が出来ないのは何故だと。 前世から引き継いだ自身の性質を忘れて、悲しんでいた。

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