必然
白銀の言葉を聞いて金髪の青年は優しく笑った。
「大丈夫か?」
誠二は状況がわからずに目を瞬かせて二人の顔を交互に見る。
「…レオ。どうしてここに…?」
彼は目の前にいる姿に少し切なそうな顔をした。
「アルマから聞いたんだよ。お前がまた無茶してるってな」
金髪の青年は大きくため息をつくと誠二を見る。
「あんたが誠二か?俺はレオだ。悪ぃな。うちのもんが
迷惑かけて…」
「い、いえ…」
誠二は目の前にいる人物の威圧感に呆気にとられていた。
(今まで出会ってきた人と全く気迫が違う…。この人も
マフィアなのか?)
彼は思考をかき消すように首を振る。
「おい。動けるか?」
レオはそう言うと白銀に近づきその様子を慎重に見た。
「…むり。俺のことはいいから…誠二さんを助けて…
あげて」
彼はその言葉に大きくため息をつくと白銀に近づきいきなり抱きかかえる。
「ちょっと…!俺、子供じゃないよ…」
「動けないって言ったのはお前だろ?俺がここにお前だけ残して去るなんてありえねぇからな。いいから大人しくしてろ」
白銀はそう言われると頬を膨らませてそっぽを向く。
その姿に誠二は内心驚いていた。
(あの白銀さんが、こんな子供みたいな態度をとるなんて…。レオさんは一体何者なんだろう?)
彼がそんなことを考えているとレオは暴れる元気もない
白銀をじっと見る。
「毒で意識が朦朧とするんだろ?後は俺に任せて
寝てろ」
「本当に…昔からレオは…変わらない…な」
白銀は小さく呟くとゆっくりと目を閉じた。
レオはその様子に静かに微笑むと誠二に視線を向ける。
「誠二だったな。こいつを手当してやらねぇと…。早くここを出るぞ」
「は、はい」
その言葉に誠二が慌てて立ち上がるとレオは扉に向かう。
レオは扉を慎重に開けて外に出ると舌打ちをした。
誠二は首を傾げて外の様子を見た。
扉の外には大勢の人だかりが出来ていた。
「ここは会員制のオークション会場です。会員証をお持ちでない方の入室はお断りしているのでその少年を置いて立ち去っていただけますか?」
スーツを着た男がそう言ってレオに鋭い視線を向ける。
「それはできねぇな。こいつは俺の息子だ」
その言葉に誠二は目を大きく見開く。
(レオさんが白銀さんの父親…?)
周囲の人間も少し騒がしくなったが、スーツを着た男は
じっとレオを見つめたままだ。
「息子だとしてもここのルールには従っていただきます」
そう言うと男は白銀に腕を伸ばす。
レオは彼が触れる寸前にその腕を掴んだ。
「ルールは知ってる。だが、あんたは俺が誰か知らないのか?」
そう言うとレオは左手の甲を見せた。
「そ、その刺青は…!」
レオの手の甲には金色の獅子の刺青が入っていた。
周囲の人間はその刺青を見ると顔を青ざめかすかに震えている。
誠二は状況が理解できずにただ見ていることしかできなかった。
レオは周囲の人間の反応を見てにやりと笑う。
「俺が誰なのか理解してくれたみたいだな。さぁ、道を空けてもらおうか?」
そう言われるとスーツを着た男が怯えた顔をしてレオの前から退いた。
「ほら、行くぞ」
レオは振り返って誠二を見ると一言だけそう言って歩き出す。
誠二も慌ててその後を追う。
二人がエレベーターの前に来ると一人の男がその前に立っていた。
「お久しぶりですね。リオンのボス…レオさん?」
男はにやにやと笑みを浮かべながら左右で違う色をした目でこちらを見ている。
その男が漂わせている気配は理由はわからないが周囲の
人間よりも異質だ。
「…何故、お前がこんなとこにいる?イアン」
今まで余裕の顔をしていたレオが雰囲気を変え明らかに
相手を警戒していた。
「いえ。ここでちょっとした話し合いをしようと思っていたのですが…。その青年に邪魔されてしまいましてね…」
男は表情を失って白銀をじろりと見る。
レオが白銀を抱える腕に力を込めた。
「そいつは悪かったな。こいつには後でよく言って聞かせるよ」
左右で色の違う目は何かを思案するように顎に手を当てる。
少しの沈黙の後に男はふっと笑った。
「まぁ、いいでしょう。私もことを荒立てたくはないですから。あなたの顔に免じて今日のところは引きましょう」
男はそう言うと笑みを浮かべたまレオに近づくと彼にしか聞こえない声で囁く。
「私が引くのはこれで最後です。次はありませんからね」
レオは顔を顰める。
男は頭を軽く下げると隣に移動した。
レオは最後まで警戒を解かずにエレベーターに乗った。
ビルの外に出ると車が停めてあり見知らぬ顔の男が複数いた。
「悪ぃ。待たせたな」
レオはそう言うと男達に笑いかける。
「全くですよ。ボス。まぁ、大我のためならしょうがないですけど…」
誠二は聞き覚えのない名前に首を傾げた。
(大我…?誰のことだろう…)
彼に気づいたレオは、はっとした。
「もしかしてこいつから名前聞いてないのか?」
「え?白銀さんですよね?」
誠二がそう言うとレオは頭を搔く。
「あいつこんな事に巻き込んでおいて本名も教えてなかったのか…。こいつの本当の名前は夕凪大我って言うんだよ」
その言葉に誠二は目を瞬かせた。
「じゃあ、白銀っていうのは…」
「あー…。こいつが自分でつけたあだ名だな」
レオはそう言うと真剣な顔をして急に頭を下げる。
「えっ?レ、レオさん!?何をしてるんですか?」
誠二は目を大きく見開いて慌てた。
「悪かった。うちの大我がこっちの世界の人間じゃない
あんたを巻き込んじまって…」
彼は頭を上げると誠二の目を真っ直ぐに見る。
「だが、どうかこいつの傍にいてやってくれねぇか?大我が俺ら以外の人間をこんな近くにおいたのはこれが初めてなんだよ」
「お、俺がですか?確かに白銀さんには恩があるので協力できることはしますけど…。彼みたいに強くもない俺は
たいして役には立てないと思います…」
レオは首を振った。
「大我は何とも思っていないやつを助けるほどお人好し
じゃない。きっと、あんたを助けたのには深い理由があるはずだ」
誠二はその言葉にどう返答していいのかわからず困惑する。
(俺を助けた理由…?コルボノワールに関係してる芳山株式会社を探りたいからだけじゃないのか?そもそも俺は
白銀さんとは初対面だし。何故助けたのかなんて理由思い
つかない…)
悩んでいる様子の誠二を見てレオは軽く手を目の前で振って見せた。
「深く考えなくてもいい。ただ、大我の傍にいてくれるだけでいいんだ…」
そう言ったレオは縋るような目をしている。
「わ、わかりました」
誠二が頷くとレオの表情は明るくなった。
「感謝するよ。そうだ。俺の仲間を紹介するぜ」
レオはそう言うと車の周囲にいた三人を指さす。
「リオン…。まぁ、簡単に言うとマフィアだな。リオンのメンバーのウル、ライ、ソラだ」
誠二は開いた口が塞がらない。
(マ、マフィア?じゃあ、白銀さんも…?)
そんな中レオに抱きかかえられた白銀は一人苦しそうな顔を浮かべていた。
「まずい。毒が進行したか?早く解毒剤を飲まさねぇと。一応、持ってきておいてよかったぜ」
彼はそう言うとライと呼んだ人に近づき小瓶を受け取る。
「大我。起きろ」
ぺちぺちと白銀の頬を叩くと彼は眠たそうに目を開けた。
「解毒剤だ。飲め」
白銀は頷くとレオに支えられながら小瓶の中身をゆっくりと飲み干した。
彼はその後にまた目を閉じて眠りに落ちる。
「寝不足なんですか…ね」
誠二は心配そうにその姿を見つめた。
「何か思い当たることがあるのか?」
「最近は離れていたのでわからないですけど。前はよく悪夢を見ていたみたいです…。それで夜中に目を覚ますことも多くて。あまり眠れていなかったみたいなんです」
その言葉にレオが顔を伏せる。
「まだ、悪夢を見続けているんだな…」
ぼそりとそう呟くと彼は顔を上げて誠二を見た。
「とりあえず大我のアジトに一度帰ろう。誠二。
悪いが案内してくれるか?」
レオはそう言うと車に乗り込んだ。
「わ、わかりました」
誠二もすぐにその後を追う。
外にいた三人も車に乗ると二人を乗せた車は発進した。