表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

白い獅子

誠二がアルマの廃工場を出ると見慣れた姿が目に

入る。


「白銀さん。お久しぶりです」


白銀は振り返るとふっと笑った。


「誠二さん。三日ぶりだね。どう?アルマに護身術は教えてもらえた?」


「はい…。一応」


彼がそう言うと白銀はにこりと笑う。


「じゃあ、今からテストするよ。俺の攻撃を避けてくれる?」


その言葉に誠二は目を瞬かせた。


そして困惑したような顔をする。


「大丈夫。寸止めにするからさ。どのくらい上達したのか知りたいんだ」


「…わかりました」


誠二がそう言って頷くと白銀はじっと彼を見る。


そして彼の顔目掛けて勢いよく拳を突き出した。


「っ!」


誠二は横に跳躍してなんとかそれを避ける。


「よかった。アルマの護身術ちゃんと身についてるみたいだね」


白銀は満足そうにそう言った。


その様子を見て誠二は内心ほっとする。


「このままオークション会場に行こうと思ってるんだけど大丈夫?」


「はい。あ、そうだ…」


誠二はポケットから小さな箱を取り出すと箱の中身を白銀に見せる。


「へぇ…。ナイフか」


彼はナイフを手に取るとよく観察する。


「…催涙ガスが入ってるね」


その言葉に誠二は目を見開いた。


「見ただけでわかるんですか?」


「うん。だって重さが違う。普通のナイフはこんなに軽くないんだよ。多分、柄の部分を空洞にしてガスを入れたんだろうね。柄にそれらしい窪みもあるし…」


彼は白銀を見て考え込んだ。


(重さだけで催涙ガスに気づくなんて…。昔から

ナイフは持ち慣れてるのか?)


何も言わない誠二を見て白銀は首を傾げる。


「誠二さん?大丈夫?」


「あ、すみません。大丈夫です」


少しだけ誠二の顔をじっとみると白銀は微笑んだ。


「じゃあ、オークション会場に向かおう。タクシー呼んでるから」


「はい」




二人はタクシーに乗るとビル街で降りた。


「ここがオークション会場ですか?普通のビル街に見えますけど…」


何の変哲もなく建ち並ぶビルを見回して誠二はそう言った。


白銀は意味深に笑う。


「木を隠すなら森の中って言うでしょ?海外のマフィアが来るんだ。迂闊に気づかれないように外観は普通のビルを装って周囲に溶け込ませてるんだよ」


「なるほど…。それで俺はオークション会場で何をすればいいんですか?」


誠二がそう聞くと白銀は懐から封筒を取り出して彼に渡した。


「…誠二さんにはオークションの参加者にこの名前がないか調べてほしいんだ」


彼は受け取った封筒を開けると中に入っていた紙を広げて見る。


そこにはイアン=アルフレッドと書かれていた。


「イアン…?この名前を探せばいいんですか?」


「うん。会場には参加者の名簿が入ったデータがある。その場所は調べておいたから俺が案内するよ」


誠二は頷く。


「わかりました」


そう言った彼の顔はこわばっていた。


(マフィアがいるオークション…。気を引き締めないと…)


白銀はその顔を見て目を瞬かせる。


「誠二さん。もしかして緊張してる?」


「はい…。白銀さんに面倒をかけないように頑張ります」


その言葉に白銀は首を振った。


「そんなに気負わなくても大丈夫。アルマに護身術も教えてもらったんだし…。それに言ったでしょ?何があっても俺が誠二さんを守るって」


誠二は顔を綻ばせる。


「ありがとうございます」


「うん。じゃあ、行こうか」


彼が頷くと白銀は歩き始めた。




しばらく歩くと黒いビルの前につく。


「ここだよ」


白銀はそう言うと会員証を懐から取り出す。


ビルの入口には警備員の格好をした男が立って

いた。


二人が近づくと男はじっとこちらを見る。


「ここは関係者以外は入場できません。会員証はお持ちですか?」


白銀は会員証を警備員の男に見せる。


「どうぞ」


男は一礼すると脇に移動して道を開けた。


白銀はにこりと笑うとビルの中に足を踏み入れる。


誠二も急いでその背中を追った。


中に入ったところで誠二は白銀に小さな声で話しかける。


「あの、さっきの人警備員でしたけど…」


「うん。偽物だけどね」


その言葉に誠二は目を見開いた。


「何故、偽物の警備員を…?」


「会員証を持っていない人の侵入を防ぐためだよ。あくどいことをしてる連中も多いから下手に居場所を知られたくないだろうからね」




少し進むと無人でエレベーターの横に貼り紙だけがして

あった。


『会場は十階です』


その貼り紙を見て誠二は隣の階数が表示された看板に顔を向ける。


「あ、そうだ。誠二さんに会場の地図渡しておかないと…。なくさないでね」


「ありがとうございます」


彼は地図をもらうと広げた。


ふと、整備室と書かれた部屋に赤い丸がつけられているのが目に入る。


「整備室…?」


「そこには参加者の名簿が入ったデータがあるんだ。もし、その名簿にイアンの名前があれば…」


そう言った白銀の顔を見て誠二は手が震えた。


目は吊り上がり眉間に皺を寄せてあきらかに怒っている表情をしているのにその口元には何故か笑みが浮かんでいる。


(…イアンって名前の人と白銀さんには何か深い因縁でもあるのか?)


そんなことを考えながらエレベーターに乗ると白銀は十と表示されたボタンを押した。


静かにエレベーターが上昇する。


十階の数字に明かりがつくと扉が開いた。


「ついたよ」




二人はエレベーターから降りると周囲を見渡す。


薄暗い会場には中央に大きなスクリーンがあり、そこだけ煌々と明かりで照らされている。


中にいる人数は想像していたより多かった。


一見普通の人に見えるがここにいるということは皆裏の世界の人間なのだろう。


「誠二さん。俺から離れないでね」


隣で白銀が小さな声で囁いた。


誠二は頷くと、もう一度会場に目を向ける。


ふと、見覚えのある姿が目に入った。


(あれは…。大澤社長?)


少し離れた場所で大澤が誰かと話している。


「白銀さん」


誠二は彼の名前を呼ぶと視線を大澤がいる場所に向けた。


「なるほど…。あいつも来てるのか。誰と話してるんだろう?」


彼はそう言うと大澤に気づかれないように注意深く見る。


少しすると大澤の前にいた数人が移動した。


「あれは…」


白銀はにやりと笑って誠二に近づくと耳打ちをする。


「話し相手はマフィアだね」


その言葉に誠二は大きく目を見開く。


(本当に大澤社長はマフィアと繋がっていたんだな…。自分が働いていた頃はそんなこと考えもしなかった)


彼は首を振ると白銀に言った。


「白銀さん。行きましょう」


「うん。気づかれても面倒だからあいつらには近づかない方がいいと思う。整備室まで案内するよ。ついてきて」


白銀はそう言うと人の視線を避けて歩き始める。


誠二も慎重にその後ろを追った。




少しすると整備室の扉の前につく。


「誠二さん。俺が呼ぶまでここで待ってて。もし、その間に誰かに危害を加えられそうになったらアルマにもらったナイフで催涙ガスを出して。すぐに駆けつけるから」


「わかりました」


誠二はそう言うと懐からナイフの入った箱を取り出して両手で持つ。


白銀はその姿を確認すると扉を開けて中に入った。


彼は薄暗い階段を気配を消して下りる。


少し歩くと多くのパソコンが置かれている場所に

着いた。


白銀は腰に拳銃を掛けた複数の男を見て静かに笑う。


「あのー。すみません」


「誰だ!?」


彼の声に男達は一斉に白銀を見る。


「トイレに行こうと思ったら部屋を間違えたみたいで…。出口ってどこですか?」


そう言った白銀に男達は怪訝な顔を向けた。


「はぁ…。ここは関係者以外立ち入り禁止なんですよ。とりあえずここから出て行ってください」


長身の男は彼に近寄るとその腕を掴もうと少し

屈む。


その瞬間、白銀は男の腹部を思い切り蹴った。


「うぐっ!」


長身の男は短い呻き声を上げてその場に蹲る。


すぐに周囲の男達が白銀に向けて銃を構えた。


「こいつ!」


「そんなに怒らないでよ。ほら、プレゼントあげるからさ」


彼はそう言って微笑むと手に持っていた物を投げる。


男達の前にピンを抜かれた手榴弾が転がった。


「手榴弾だと!?」


衝撃に備えようと身構える男達に白銀はふっと

笑う。


「大丈夫。少しの間気を失ってもらうだけだよ」


そう言うと手榴弾から煙が吹き出し辺りに充満した。


しばらくして煙が消えると白銀だけがその場に立っている。


「アルマの作った催眠ガス…。すごい効くなー」


そう言ってマスクを外すと倒れている男達に近づ

こうとする。




その時、彼の腕に鈍い痛みが走った。


「…っ!」


白銀は一瞬だけ顔を顰めて、自分の傍らを見る。


そこには血のついたナイフが落ちていた。


ナイフが飛んできた方向を予測して視線を向けると

男が前に腕を伸ばしたまま倒れている。


白銀は舌打ちをすると肩の浅い傷口を見てため息をつく。


「悪足掻きか」


そう言うと倒れている男達の腕と足を紐で縛った。


そのままパソコンが置かれている部屋を出ると階段を上って外に繋がる扉を開ける。


彼はは目の前にいた誠二に声をかけた。


「誠二さん。お待たせ。もう入ってきていいよ」


「はい…。って白銀さん!腕、怪我してるじゃないですか!」


そう言って誠二は血が滴っている腕を掴む。


「大丈夫。かすり傷だから。出血も少ないしすぐとまるよ」


彼は誠二の腕を離すとその不安そうな顔を見て微笑んだ。


「それより名前があるか調べてくれる?こういうの得意でしょ」


「わかりました…」


誠二はそう言うと中に入り、パソコンがある部屋に向かう。


彼が入った後に扉を閉めようと腕を伸ばしたとき

焼けるような痛みを感じた。


「…この痛み。毒か」


白銀は誠二に聞こえないようにそう呟くと首を

振る。


「少しならもつだろ…」




しばらくして部屋に入ると誠二がパソコンの前で

座っていた。


彼は白銀に気づき顔を上げる。


「白銀さん」


名前を呼ばれて近づくと誠二はパソコンの画面を見せる。


「イアンって名前ありました」


「やっぱりここに来てるんだ…」


彼はそう言うと手で口を押えた。


その下には不気味な笑みが浮かんでいる。


誠二はそんな白銀の顔を見て目を瞬かせた。


「白銀さん。大丈夫ですか?すごい汗ですよ?」


「え?」


彼は自分の頬に手を当てる。


手が湿っているのを見て白銀はため息をついた。


「誠二さん。ごめん。今すぐここから出よう。あれ即効性の毒だったみたい」


「え?毒ですか?」


彼は頷くと言葉を返そうとする。


「あ…れ…?」


視界が歪む。


「まず…い」


白銀はそう呟くとその場に倒れた。


「白銀さん!?」


誠二は慌てて立ち上がると彼に駆け寄る。


「誠二さん…。ごめん。俺のことはいい…から早くここから逃げ…て。もし、誰か入ってきたら…」


そう言うと白銀は唇を噛んだ。


(くそっ。油断した…。意識が朦朧とする…)


誠二は顔色の悪い彼を見て困惑した。


「毒って…。一体、どうすれば…」


ふと、白銀の肩から血が滴っていたのを思い出す。


誠二は彼の腕をそっと掴むと傷口を確認した。


白銀の肩には刃物で切られたような傷とその下にある刺青がされている。


「これ、なんだろう?白い…獅子?」


誠二はそう口にして頭を振った。


「毒ってどうしたらいいんだろ?解毒剤なんて見当たらないし…」


そう言いながら彼は自分の存在がどうしようもなく情けなく感じた。


(白銀さんは俺のことを助けてくれたのに…。俺は何もできないなんて…)


顔を歪ませる誠二に白銀は無理やり笑う。


「俺のことはいいって…言ったでしょ?これは俺の問題…だから。誠二さん…は気にしなくて…いい」


その言葉に誠二は拳を強く握りしめた。




「また、一人で抱え込んで…。無理はするなって言っただろ」


突然、後ろから声が聞こえた。


誠二はその声に振り返る。


後ろには金髪の青年が立っていた。


その姿を見て白銀は目を大きく見開く。


「レオ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ