秘匿
ビルが建ち並ぶ街、その一角にコルボノワールのアジトがある。
外の景色が一望できる大きな窓の前に左右で目の色が違う男が立っていた。
彼はなんの感情も読み取れない目で道行く人々や車を見下ろしている。
少しすると扉を叩く音がした。
「イアン様。エーグルのボス。ロワ様がお見えになりました」
低く落ち着いた声が聞こえる。
「通しなさい」
イアンは椅子に座るとそう言った。
扉が開くと白い目をした茶髪の男が現れる。
「失礼します」
「ロワ。報告ですか?」
ロワと呼ばれた男は頷くと真剣な顔をした。
「リオンの幹部が昔、イアン様の指示で調べていた養護施設を嗅ぎ回っています。いかがなさいますか?」
イアンは微かに目を見開くと不気味な笑みを浮かべる。
「リオン……。レオさんはもう、そこまでお気づきになったのですか。ふふ。本当にあなたは私を飽きさせませんねぇ。あの銀髪の青年も実に興味深い」
部屋には異様な空気が漂っていた。
ロワは何も言わずにイアンが口を開くのをただ、じっと待っている。
「リオンの連中は放っておきなさい。どうせ、今更気づいたところでもう遅いのですから。それよりもあのフロッピーの在りかは見つかりましたか?」
「はい。やはりイアン様の仰った通り、広野誠二という名の男が所持しているようです」
その言葉にイアンはにやりと笑う。
「やっと手に入れることができますね。この二十年待ち続けた物が。十六年前にフロッピーの在りかを聞き出せなかったときは途方に暮れましたよ。忌々しい男ですね。本当に手間をかけさせてくれる」
彼の目には辺り一帯に広がる炎が映っていた。
重ねた手にぐっと力を込めると立ち上がる。
「なんとしてもあのフロッピーを入手します。これはコルボノワールとあなた達の最優先事項です。くれぐれもお忘れなきように」
「承知しました」
ロワは頭を深く下げると、部屋を出ていく。
「さぁ、宴の始まりですよ」
誰もいなくなった室内にはイアンのそんな言葉が響いた。
人気のないアパート。
そこでソラの話を聞いたレオは今までの情報をまとめていた。
「とりあえず今までの話を整理しよう」
彼はそう言ってテーブルの上に紙を広げる。
「まず、イアンの足取りだ。あいつはここ最近エーグルのボスを使い三つの養護施設を調べていた」
ペンを手に取ると養護施設の文字の側にイアン、エーグルのボス関与と書く。
「だが、三年前に突然調べるのをやめて痕跡を消すかのように施設を燃やした」
養護施設の文字から矢印を引くと三年前に火事と書き加えた。
「探し物を見つけたのか?その少年とか」
ソラの言葉に彼は顎に手を当てる。
少しの沈黙が続いた後に口を開いた。
「……ひとつだけ言えるのはイアンにとって少年を見つけることはとても重要なことだったんだろう。下っ端の部下じゃなくわざわざ、エーグルのボスを使ったんだからな」
「コルボノワールの配下の組織について調べるか?」
レオは難しい顔をする。
「誠二がイアンに会うまでもう、四日しかない。それまでにもっと情報がほしい。コルボノワールの配下の組織はライ、ソラ、ウルこの三人で調べてくれ。少年の方は危険が少ないからリオンのやつらに調べさせる」
「OK。ボス。このことは俺からリオンの連中に伝えておくよ」
ソラはそう言った後に大我の顔を思い浮かべた。
「アルマには伝えるとして、大我はどうする?ボートゥールを潰したあいつなら他の組織のことも詳しいかもしれないぞ」
「そうだな……。あいつももうガキじゃねぇ。大我には俺から話す」
その言葉に彼は頷く。
「じゃあ、俺は先にウルとライに合流するよ。さっきの話を伝えないといけないしな」
「ああ。頼む。何かわかったらまた連絡してくれ」
ソラはふっと笑うと部屋を出ていった。
「さて。俺もあいつらのとこに戻るか」
レオは椅子から立ち上がると、テーブルの上に広げた紙を丸めて懐にしまう。
そのまま部屋から出ると扉のすぐ隣に立っていた青年に声をかける。
「人払いありがとな。もう、終わったから戻ってきていいって他のやつらにも声かけといてくれ」
「わかりました。ボス」
青年はそう言うとレオと入れ違うように部屋の中に入っていった。
日が沈みかけた頃、レオは廃品置き場に着く。
慣れた手つきでボタンを押してシャッターを開けると中に入る。
階段を下りて薄暗い通路を抜けると、扉を開けた。
「レオ。おかえり」
部屋に入ると大我がテーブルに頬杖をついて座っている。
「ただいま。アルマと誠二はどうした?」
「誠二さんは寝てる。アルマはさっき電話がきたみたいで今は武器庫」
そう言うと彼は大きな欠伸をした。
「……また、寝れてねぇのか」
レオの言葉に大我は罰が悪そうに目を逸らす。
「まぁ、いい。大我。お前に話がある」
目の前に座ると真っ直ぐに彼の目を見た。
「エーグル、シュエット、フォコン。この三組織について知ってることはあるか?」
大我は唇を噛むと眉間に皺を寄せる。
「ある。コルボノワールの幹部だからね。俺は日本に来てからずっと、イアンに関する情報を血眼になって探したんだよ」
「もし、その組織のボスを見つけたらどうする気だ?」
レオはこめかみに痛みを覚えながらそう聞いた。
「どうするか?俺から全てを奪った連中だ。当然、殺す」
底知れない憎しみをはらんだ声が響く。




