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追跡

大我が眠ってから三日が過ぎた。


彼はまるで体力を回復するかのように眠り続けている。


誠二は大我が眠っている寝室に入ると布団の傍に座り心配そうに彼を見つめた。


「…大我さん」


ぽつりと呟くとその言葉に反応するように閉じられている瞼が微かに動く。


誠二は目を見開くと静かに大我の様子を見守った。


しばらくすると大我が目を開いた。


「大我さん!大丈夫ですか?」


「…うん。あれ、なんで俺のほんとの名前知ってるの?」


大我は誠二の顔を見て目を瞬かせる。


「今、レオさんを呼んできます。少し待っててください」


彼はそう言って部屋を出て行く。




少ししてレオと誠二が扉を開けて中に入ってきた。


「レオ…」


大我は顔を逸らす。


「ったく。三日も寝てたんだぞ?点滴までしながらな」


レオは彼の額に手を置いた。


「もう大丈夫そうだな」


「…うん」


大我はばつが悪そうにレオの顔を見つめる。


その様子を確認するとレオは彼の腕の点滴から繋いでいる針を抜いた。


「腹減っただろ?何か食えそうか?」


大我は静かに頷く。


「生活してるんだから、廃墟でもガスは通ってるだろ。ちょっと待ってろ。何か作ってやるから」


レオはふわりと笑うと部屋を出ていった。


残された誠二に彼はぽつりと呟く。


「ごめんね。誠二さん…」


「大我さんが無事ならそれでいいですよ」


優しく笑う彼に大我は俯いた。


「名前。レオさんから聞きました。大我さんって呼んでも大丈夫ですか?」


「いいよ。俺もごめんね。本当の名前、誠二さんに言ってなくて…」


誠二は首を横に振る。


「謝らなくて大丈夫です。きっと簡単に本名を明かせない事情があったんですよね」


「…だとしても。俺は嘘をついてた。誠二さんはいろいろと俺に協力してくれてたのに」


そう言って顔を背ける大我に誠二は微笑んだ。


「でも、大我さんは俺のこと守ってくれたじゃないですか。途方に暮れていたときに声をかけてくれた。大澤から狙われてる俺を助けてくれた…。それだけで充分ですよ」


微かに大我の瞳が揺れた。


「誠二さん。ありがとう…」


彼の表情は元の明るいものに戻っている。




少しすると扉が叩かれる音がした。


「大我。飯、できたぞ。入るからな」


扉が開かれると卵の匂いが漂う。


二人の腹の音が鳴った。


「すみません!」


誠二は慌てて腹を押さえる。


「気にするな。多めに作ったから遠慮せず向こうで食べてきていいぞ」


レオにそう言われると誠二は頷いて逃げるように部屋を出ていく。


一人残された大我はじっとレオの方を見る。


「話があるんでしょ。わかりやすく誠二さんに席を外させてさ」


「ああ…」


レオは少し沈黙した後に言った。


「大我。俺と一緒にアメリカに帰らないか?」


大我は大きく目を見開く。


「…どうして?俺がマフィアを敵に回したから?」


彼は俯いた。


レオはそんな姿にため息をつくと大我の肩を掴む。


「心配してるんだ。お前が敵に回したのはただのマフィアじゃない。コルボノワールだ。そのボス、イアンの悪名の高さはよく知ってるだろ?人身売買、薬、誘拐…この手のことはほとんどイアンが絡んでいる」


大我はレオをじっと見上げる。


「わかってる。でも、誠二さんをおいてくわけにはいかないでしょ?」


「大我。イアンの目を撃った子供がお前だと気づかれたらあいつは本気で殺しにくるぞ。アメリカならリオンが守ってやれる。誠二のことが心配なら一緒に連れてこい。一人も二人もそう変わらないさ」


真剣な顔をする彼を見て大我は言葉がでてこなかった。


何も言わない大我を見てレオは頭を搔く。


「俺達はまだしばらく日本にいる。お前も目覚めたばかりだから、返事は急がなくていい。よく考えて決めろ」


「うん…」


彼は暗い顔をして頷いた。


「話しは終わりだ。食事前にこんな話して悪かったな。冷めないうちに食えよ」


「ありがと…」


大我はそう言うと布団から起き上がりテーブルに近づく。


そしてテーブルの前まで来ると椅子に座る。


「ほら」


レオはお椀の蓋を開けてスプーンを彼に渡した。


大我はスプーンを受け取ると中に入っていた卵粥を食べ始める。


そんな彼の様子をレオは思案するような顔で見ていた。




誠二はご飯を食べ終えて皿を洗っている。


ふと、顔を上げると窓から車の傍にいる一人の男が手招きしているのが見えた。


(あれは確かリオンのメンバーの人だな…)


彼は首を傾げながらも外に出る。


車の傍にいる男に近づくと声をかけた。


「ウルさん。今、俺のこと呼びましたか?」


「ああ。俺の名前覚えてくれたんだな。ボスにちょっと外に来てくれって伝えてくれるか?」


誠二は頷く。


「わかりました」


彼が建物に入っていく後ろ姿を横目に見ながらウルは周囲の建物に厳しい視線を向けていた。


誠二は建物の中に入ると大我の部屋を開ける。


「レオさん。ウルさんが外に来てほしいそうです」


レオはその言葉に少し考える素振りを見せると何かに気づいたように手を叩いた。


「そういうことか。誠二は大我についててやってくれ。

絶対、外には出るなよ?」


「わかりました」


誠二が頷くとレオは部屋を出て外に向う。


彼は外に出ると周囲にあるビルを見ながらウルに近づき

小声で聞いた。


「何人いる?」


「六人。撃ってこないのをみると、狙いは…」


ウルは大我のいる廃工場を見る。


「大我だな…。けど、いくら探したとしても三日でここを見つけられるか?」


そう考えてイアンの姿が脳裏をかすめた。


レオは上着の胸ポケットを探る。


少しして指に当たったものを取り出した。


彼はその丸い物を見て顔を顰める。


「…盗聴器だな。イアンはこれで大我の居場所を見つけたのか。あのときエレベーターの前ですれ違うときにこっそり俺につけだんだな」


そう言うと小さく丸い物を指で潰した。


「どうする?ボス」


ウルが指示を仰ぐように聞く。


「面倒だが、ビルの屋上のやつらは眠らせるか。それから大我達を連れてアルマのところに移動する。見つかった

いじょうここにはいられねぇからな」


三人の男はその言葉に頷いた。




レオは大我の部屋に入ると彼の方を見て視線だけ窓の外にむける。


「俺も行く」


大我は彼の意図を察したのかそう言って起き上がろうとするがレオに手で押さえられた。


「まだ起きたばかりだろ。あの程度、俺達で簡単に片付く。お前は誠二を守ってやれ」


誠二はその会話が何を指しているのかわからず交互に二人の顔を見る。


大我はそんな様子の誠二を見てため息をつく。


「わかった。終わったら教えて」


レオはにっと笑うとまた部屋から出ていった。


「あの、大我さん。何が起こってるんでしょうか?」


誠二は困惑した顔で彼を見た。


「大丈夫だよ。リオンは強い。誠二さんは安心して俺とここで待ってればいいからね」


「…わかりました」


状況は理解できないが、これ以上聞いても何も教えてもらえないと悟った彼はそう言った。




レオは廃工場の裏口から外に出るとビルの屋上にいる人間に気づかれないように当たりを見回す。


そして、ビルに梯子がついているのを発見すると静かに

笑った。


彼はもう一度、三人のもとに向かう。


「ボス」


ウルが声をかけるとレオは彼等を手招きした。


そして三人が近づいてくると声を落として話し始める。


「やつらがいるビルには梯子がある。手分けして潰すぞ。左側はライ、右側はソラが正面は俺とウルがやる。後、

気絶させるだけだ。殺すなよ」


三人が頷くとレオは懐から小さな小瓶を取り出し振ると空に投げた。


その瞬間、小瓶から煙が上空に吹き出す。


レオ達は煙に隠れるようにして各々違う方向に姿を消した。


このことでビルの屋上からスコープで彼等を覗いていた六人の男は動揺する。


彼は懐からスマホを取り出すとイアンと書かれた

名前を押して電話をかけた。


「イアン様。申し訳ありません。ターゲットが煙に隠れ見えなくなりました…」


耳に当てたスマホでそう報告する男の手は震えている。


大きなため息と共に冷淡な声が返ってきた。


「本当にあなた方は使えない部下ですね。まぁ、もう会うこともないでしょうけど」


その言葉に男は目を瞬かせた。


「それはどういう意味でしょうか?」


「時期にわかります。では…」


彼がそう言うと通話は切れる。


男が首を傾げながら再びスコープを覗こうとすると突然、激しい痛みが走る。


痛みを感じた足を見ると血で真っ赤に染まりそれが地面に伝う。


「え…?」


男はゆっくりと振り返る。


後ろには拳銃をこちらに向けた金髪の青年が立っていた。


「悪ぃな。少し眠っててくれ」


その言葉を最後に男の意識は途切れた。




レオは男が気を失ったのを確認すると彼に近づこうと一歩踏み出した時、何かボタンのようなものを踏んだ。


その瞬間、無数の銃弾が男を襲う。


彼は急いで箱の影に身を隠すと唖然とした。


「なんだ。これは…」


銃弾が止むとレオは箱の後ろから立ち上がる。


そして慎重に周囲を見回すが人の気配はない。


顎に手を当てながらその場を観察すると男の周りに不自然に置かれている箱に気づく。


箱に近づき蓋を開けるとその中にはマシンガンが男の方に照準を向けて固定されていた。


「さっき、銃弾を撃ったのはこれか…」


マシンガンの隣にはスマホがある。


レオはスマホを手に取った。


図ったようなタイミングで電話がきた。


画面にはイアンと表示されている。


彼はその名前を見て眉間に皺を寄せたが応答のボタンを押して電話にでた。


「レオさん。お久しぶりです」


「イアン…」


スマホからは乾いた笑いが聞こえる。


「すみませんねぇ。使えない部下ばかりでして。

どう、処分しようか悩んでいたのですよ。ですが助かりました。あなたに手伝っていただけて…」


「さっき、銃弾が撃たれた。あれはお前の仕業だな」


低い声でレオがそう言うと全く悪びれる様子のない言葉が返ってきた。


「ええ。そうですよ。言ったでしょう?どう処分するか

悩んでいたと」


「お前の部下だろ。何故、こんなことをする?お前には人の心がないのか」


少しの沈黙の後にくすくすと笑う声がする。


「人の心ですか。そんなものマフィアに必要でしょうか?どうせ、私の部下も殺さずに気絶させようとしたのでしょう。無駄な殺しはしない。昔からあなたは本当に他人に

甘い」


「何が言いたいんだ?」


苛立ったようにレオはそう聞いた。


「あの時、私を殺していればこんなことにはならなかった。あの青年が狙われることも…ね」


「本当だな。お前はこの世から消しておくべきだった。

だが、もう二度目はねぇぞ。それに俺に殺されかけたこと

忘れたわけじゃねぇだろう?」


イアンは冷淡な声で言う。


「そうですね。私の要件はこれだけです。では…」


通話が切れるとレオは顔を顰めて大きく舌打ちをした。


「相変わらず嫌なやつだ…」

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