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前編

「ラパン・カニーンヒェン公爵令嬢。お前との婚約を……」


 とある夜会の会場に響いた声。

 それはしかし、最後まで続くことはなかった。


 叫んだ張本人である王太子アイザックは目を見開き、その場に固まってしまっている。

 彼にしなだれかかっているピンク髪の女が不安げに見上げていても、全く気づかない。それほどにアイザックはあるものに目を奪われてしまっていたのだ。


 あるもの――それは、ウサギの耳を頭部から生やした、透き通るような白髪の美少女だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 この国の王太子であり次期国王であるアイザックは婚約者のことを腹に据えかねていた。

 完全なる政略により定められた婚約であり、できるだけ我慢してきたが、もうこれ以上は無理だ。


 彼の婚約者の名は、公爵令嬢ラパン・カニーンヒェン。

 今までにないほど成績優秀で、王妃教育を全て終えている。それだけ見れば王妃として最適なのだろう。

 だが、ラパンはいい意味でも普通ではないのと同様、悪い意味でも全然普通ではなかった。


 何せ、どんなパーティーの時でも、婚約者二人きりのお茶会ですら、帽子をまぶかに被っているのだ。

 王族の前で帽子を被るなど、不敬にも程がある。だがいくら注意しても彼女はそれをやめようとしない。


 それだけではない。ラパンは地味で陰気でもあった。こちらが話しかければ応えるが、あちら側から話されたことはほとんどない。いつもモジモジとしていて、怯えているようにすら見える態度だった。


 いくら頭が良いとしてもこれではとても王妃など務まらない。それより何より、彼女の無礼な態度に飽き飽きしていた。

 故に王太子アイザックは自分たちの正式な婚姻がなされる前に、婚約破棄をすることにした。



 できれば婚約解消という形にしたかったが、決断まで悩み過ぎたせいで時間がなかったものだから、破棄を選ぶしかなかった。

 こちらの有責としておけばカニーンヒェン公爵家からの抗議も少ないだろう。適当に慰謝料でも払っておけば黙ってくれるに違いない。


 そんな算段の上、アイザックはそこら辺にいる婚約者のいない下級令嬢を捕まえ、『真実の愛』という胡散臭いものを囁いて、仮の浮気をすることにした。

 ラパンよりはマシな女だが王妃としての素質はまるで足りない。どうせ捨てるのだからと散々甘やかすと下級令嬢はすっかりその気になり、きちんと浮気相手役――本人はそうは思っていないようだが――を務めることができるレベルにまでなったので、本番に臨むことにしたのである。


 婚姻式の一つ前の夜会にて、アイザック王太子は計画を実行した。

 いや――実行するはずだった。


 そう、ウサギ耳の少女を目にするまでは。


「なぜ……バニーガールがここにいるんだ?」


 長い白髪を揺らし、白いウサギ耳を可愛らしくひょこひょこさせている彼女を見つめ、呆然としながら呟くアイザック。

 ぴっちりとした黒いスーツに編みタイツの姿は、異国のカジノとかいう店で働く女性のものによく似ている。

 まさしく少女はバニーガールであった。


 婚約破棄とか『真実の愛』の茶番劇だとか、公爵令嬢の姿がどこにも見えないことなどが全てどうでも良くなってしまうくらい、煌びやかなドレスの令嬢たちの中に一人佇むバニーガールの姿は異様だった。

 それは他のパーティー参加者たちも同様らしく、多くの人々がバニーガールに視線が釘付けになっている。


 「あれは一体誰なのだ」というひそひそ声が交わされる中、バニーガールは、夜会に姿を現したばかりのアイザック王太子の方を向いて、言った。


「ごきげん麗しゅう、王太子殿下。このような見苦しい姿で申し訳ございません。他の参加者の皆様方にも深くお詫びを申し上げますわ」


 その声は、アイザックのよく知るものだった。

 忘れるはずがない。何せ、この世で一番許し難い女のものなのだから。


 ――謎のバニーガールの正体は、たった今婚約破棄を告げようとしていた、ラパン・カニーンヒェン公爵令嬢その人であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] う、ウサ耳どころかバニーガールっぽい服装!? いろいろと衝撃なのです(;゜Д゜)
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