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油断大敵①

「ちょっとデイジー?これは派手すぎだわ、もっと楽な格好にして頂戴。」


 翌日、グレイスはダリアに会う為の支度をデイジーにお願いしていた。しかし、まるで舞踏会にでも行くかのようなドレスとアクセサリーが用意されており、グレイスは冷や汗を流しながら困惑の表情を浮かべる。


「護衛も連れて行かないんです、せめてあの卑しい泥棒猫に力の差を見せつける為にも精一杯着飾っていきましょう。」


(ちょっと言葉遣い悪くない・・・?いくら位が低いとはいえ、一応貴族のご令嬢よ??)


 それどころではないグレイスは敢えてメイドの失言には触れず、用意されたドレスを見つめる。まるで冬の夜空のような鮮やかな藍色のドレスに、これでもかというほど真珠(パール)や宝石が施されていた。それに負けじと、首飾りと耳飾りには希少なブルーダイヤモンドがふんだんにあしらわれている。どこからどう見ても、街の喫茶店に茶を飲みに行くような恰好ではない。


「あのね、TPOっていう言葉知ってる・・・?これじゃ逆に私が大恥をかくわ。」


 謎にやる気満々なデイジーには悪いけど、と苦笑したグレイスはドレス類を別のメイドに片づけるよう指示をする。それによりデイジーはあからさまに不満そうな表情をしているが、どうしてもこれだけは譲れないので、グレイスはそんな彼女を無視することにした。


 デイジーは普段、主人を前にして己の感情を表に出すことは滅多にしない。屋敷のために働き、丁寧な奉仕を心掛け、主人に対して最大限のサポートを心掛けている。メイドとしては完璧に見えるデイジーにも、もちろん例外はあった。メイドと主人の関係とはいえ、デイジーは幼い頃からグレイスと共に育ったのだ。物心がつくまで、お互い姉妹のように接していた。そんな妹のようにも想っている主人が他人に侮辱されたのだ、デイジーの頭に血が上っていても何等可笑しくはない。


「・・・かしこまりました。ですがせめて、お化粧だけは念入りにさせてください。」


 観念したように肩を下げるデイジーに、グレイスはホッと息をついて安堵する。結局、着るのはドレスではなく紺色のワンピース、アクセサリーは真珠のピアスをつけて出かけることにした。


「シンプルにコーディネイトしても、お嬢様の美しさは衰えませんね!」


「逆に、お嬢様の上品な顔立ちが際立つ気がしますね。」


 支度を終えたグレイスに賞賛の声が上がる。当然お世辞などではなく、メイドたちの努力の甲斐あって、グレイスは本来の姿よりも更に美しく仕上がっていた。そのためか、デイジーと補佐していた2人のメイドはやりきった表情をしている。


「ありがとう、あなた達のお陰だわ。さてデイジー、そろそろ出かけるわよ。」


 ふと窓の外をみれば、丁度太陽が真南まで差し掛かるところであった。約束の時間まであまり時間がない。グレイスは急いで屋敷を出ていき、デイジーだけを連れて約束の場所まで向かった。


 グレイスたちが住まうフロラ王国は、戦争とは一切無縁な平和な国だ。街の治安もそれ程悪くはないため、昼間であれば例え貴族のご令嬢が1人で無防備に歩いていても襲われる心配がない。それでも普段護衛を連れて行くのは万が一を考えての事だ。


 他国と比べると国土の面積が小さく、貴族の数も少ない。そのため、王家の人間も含めて側室や愛妾を迎えることは禁止されていた。王族や貴族に流れる高貴で尊い血が薄まるのを恐れたためだ。だがその結果、年々人口が減り少子化も進んでいるので本末転倒である。


 伯爵家で現在(いま)念を入れている事業というのも、人口減少によって起こり得る食糧不足の問題を懸念して始めたものだ。今まで独立国家に近かったフロラ王国の政策を緩和させたのが伯爵家である。他国の貴族を対象にして、フロラ王国でしか採鉱できない希少な宝石を輸出する。その代わりとして、膨大な食料を輸入することにより我が国の食料問題を解消していた。だがこれも臭い物に蓋をしているだけの状態に過ぎず、このまま一切策を練らなければ我が国の未来は風前の灯火である。


 そんな平和ボケした国で、グレイスが護衛騎士も連れずに街に向かうのも無理はない。デイジーも念には念をとは思っていたが、グレイスが止めた為に無理には強要しなかった。そうして何のトラブルもなく、二人は約束の場所に到着したのだった。


「いらっしゃいませ。2名様でお間違いないでしょうか。」


 カランカラン、と小さく入店を知らせる鈴の音に反応して店員がやってくる。「ダリアという女性と約束をしている」とデイジーが伝えると、店員は迷いなく奥にある個室まで案内してくれた。約束した人物は既に席についていて、やってきたグレイスに気が付くと、ニッコリと笑顔を見せる。


「グレイス様、初めまして。ダリア・クリントンと申します。」

誤字脱字などございましたら、ご報告いただけると助かります。

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