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婚約破棄③

 あまりにも予想外な相手だったため、動揺したグレイスは思わず手にしたカップを落としてしまった。だが間一髪のところで、落ちたカップをデイジーが素早く受け止める。相変わらず素晴らしい反射神経だな、とグレイスは思わず感心した。


「・・・まさかとは思うんだけど、ダリア・クリントンじゃないわよね??」


「いいえ、そのまさかで御座います。」


 信じられない。とでもいうような表情で、デイジーが手渡してくれたカップを受け取る。実際、グレイスが驚くのも無理はなかった。なぜならダリアはとても愛らしく、貴族だけでなく平民からの人気も高い。外見は内面を映す鏡だとでも言うように彼女は心優しい人物だと聞いている。


「実際に会ったことがないから分からないけど、周りの話を聞く限りではそんな大それたことが出来るような女性ではないと思うのだけれど。」


 ローレルとグレイスが婚約していることは、貴族平民問わず誰もが知っている事実だった。それなのに男爵家の令嬢であるダリアが知らない筈がないのだが・・・。


「確か、令嬢はつい最近まで屋敷から出たことが無かったそうね。男爵から過保護に育てられていた箱入り娘なら、知らなかったという事もあり得るわ。」


 『恋は盲目』ともいうが、現在(いま)は良くても、この先あの傲慢な男と結婚しても幸せな未来は築けないだろう。グレイスは少し令嬢を不憫に思ってしまった。それに、真実を確かめるためにも(個人的なお節介も兼ねて)一度令嬢に会う必要があった。


「令嬢に手紙を出すわ、紙とペンを持ってきて頂戴。」


「かしこまりました。」


 そう長く時を経ずして、優秀なメイドは羊皮紙と万年筆を持ってきてくれた。早速、近いうちに会えないかという主旨を簡潔に述べた手紙をしたためる。手紙を書き終えたグレイスは、残っていたココアをすべて飲み干した。


「よろしくね、私はもう寝るわ。湯浴みは明日の朝にお願い。」


「おやすみなさいませ、お嬢様。」


 空のカップと手紙を受け取り、デイジーは一礼して部屋を出ていく。グレイスはその様子を見送り、ローレルが置いていった婚約破棄の同意書を木箱にしまってからベッドに潜り込んだ。


 父が帰ってくるのはあと10日後だ。婚約破棄の件について事実無根なく、ありのまま説明をする必要がある。それにはダリアとの対話も必要なことだ。それにうまくいけば、侯爵家に対して慰謝料を請求する事が出来るかもしれない。


(お金はあって困るものでは無いもの。)


 グレイスにとって、破棄によって傷つけられた自身の名誉などどうでも良かった。何ならこの先一生結婚が出来なくても問題はない、とすら思っている。とにかく今日の出来事でとても疲弊しているグレイスは、先の事を考えるのは後回しにしようと眠りにつくことにした。



 ―――2日後、ダリアから返事の手紙が届いた。早速、デイジーから受け取ったペパーナイフで封蝋を外す。手紙に書かれていたのは、簡潔に述べれば『誤解を解きたいため、明日会えないか』という内容であった。


「早速明日は令嬢と会ってくるわ。支度をお願いね。ちなみに護衛の手配は不要よ。」


「・・・お嬢様、無防備すぎます。何かあったらでは遅いんですよ。」


 デイジーはあまりにも無謀な主人に対し、呆れた表情で汗を浮かべている。


「大丈夫よ、約束した場所も一応騎士が護衛している喫茶店に行くのだし。道中も貴女が居てくれれば問題ないわ。」


 そんなメイドの心中など露知らず、グレイスは優雅に朝食を摂っている。この時のグレイスは、明らかに男爵令嬢を侮っていた。後々そんな甘い考えを後悔することになるとは知らずに。

誤字脱字などございましたら、ご報告いただけると助かります。

場面が変わるため、今回は少し短くなってしまいました・・・。

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