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幕間~テオドール①~

テオドールの過去編です。

ネタバレ的なものは特にないので、読んでも問題ありません。

 テオドール・ライラックは、18歳という若さで公爵の家督を継いだ。テオドールが優秀だったというのも一つの理由であるが、両親が高齢だという事実も相まって、通常とは異例の早期交代が果たされたのである。


 テオドールは幼い頃、両親から可愛がって貰った記憶があまりない。公爵夫人は高齢出産で体力が落ちてしてしまい、テオドールを産んでからは体調があまり芳しくない状態が続いていた。その為、待望の長男が誕生したというのに公爵は仕事で忙しく、乳母や使用人達は夫人の看病で常に齷齪(あくせく)していた。最初のうちこそ、騒いだり悪戯をしたりして周囲の目を引いてみたりはしたが、すべて逆効果になってしまったので仕方なく大人しくしている事にした。そのうち段々と自分で物事を考えるようになり、誰にも望まれない感情には蓋をするようになった。一人で遊んでいてもつまらないので、次第に書斎で本を読んだり書き物をして過ごす事が多くなる。勉強をすればするほど両親は喜んで褒めてくれたので、これが正しい行いなのだとテオドールは思うようになった。


 大半の貴族の子供は、幼年期から児童期にかけて年相応の生活を送ってるというのに対して、テオドールは既に子供らしさを失ってしまっていた。同じ年頃の子供と会話していても話が通じず、理解をして貰えない事にもどかしさを感じる。暫くすると、何故かテオドールが悪いとでもいうように、仲間内でヒソヒソと陰口を叩かれるようになった。そうなると、友人を作るのさえ面倒臭く感じてしまい、必要以上の会話をしないよう心掛けている内に、無口な印象を持たれるようになったのだ。


 従弟のローレルは、幼少の頃からテオドールに一方的なライバル意識を持っていた。しかし現在に至るまでの間、勉学や剣術等の全てにおいて、一つも勝るものは無かった。屈辱を感じていたローレルはある日、自慢気に一人の美しい少女を連れてくる。それが伯爵家の令嬢、グレイス・ローズレッドとの出会いだった。


「俺の婚約者、グレイスだ。」


 何をそう威張る必要があるのかは分からないが、ローレルは偉そうに胸をはって令嬢を紹介してきた。


「そうか。」


 それしか返事のしようがないので、たった一言を淡々と返す。ローレルがテオドールに対して劣等感を抱いている事に彼は気付いていたので、ローレルの意図を汲み取ったテオドールは、あまりにもお粗末な行動に内心呆れていた。粗方、婚約者のいないテオドールに対しての嫌味のつもりで、態々公爵邸まで連れて来たのだろう。しかしテオドールには全く興味がないので、ローレルの望むような反応が出来る筈もない。羨ましいどころか、逆にローレルの婚約者である令嬢を不憫に思ってしまった。チラリ、と令嬢の方へ視線を向けると、テオドールの視線に気付いた少女は、まるで花が咲く様に微笑んだ。


(・・・・?)


 なんだか胸の辺りがモヤモヤとして、つい視線を逸らしてしまう。もしかしたら今朝食べた鶏肉が、胸焼けを起こしているのかもしれない。かつて感じた事のない感覚を不思議に思いながら、テオドールは冷静さを取り戻した。そんな彼の態度を見て不満に思ったローレルが何かを喚いているが、面倒に思ったテオドールは口を閉ざしてその場をやり過ごしたのだった。


 人間は平気で嘘を吐く醜い生き物だ。金や権力に溺れる様は、見ていて非常に吐き気がする。公爵を継いでからの2年間、テオドールは様々な人間と出会う度に、より一層人間嫌いが加速していった。そうして不届き者を成敗している内に、非道で冷たい人間だと周囲から噂されるようになる。だがそんな醜い人間の評価等、一切どうでも良いので態々訂正する気も起きなかった。




 立ち寄った街の路地裏で、何やら争うような鳴き声を聞いたテオドールは、声のする方へ足早に向かっていた。様子を伺うと、どうやら2匹の猫が縄張りを争って喧嘩をしているらしい。(実際は求愛されていたのだが。)声をかけると、黒猫の方は驚いて立ち去ってしまった。


 テオドールは昔から動物を好いているのにも関わらず、無表情で威圧感を放っている所為か、こうして逃げられてしまう事が多い。その事を常に残念に感じており、それによって動物を飼育する事に対しての大きな憧れを抱いていた。


(銀色の猫の方は・・・逃げないのか、珍しい。)


 両手で抱きかかえても一切逃げようとしない様子に、何だか自分を受け入れて貰えたような気がして、テオドールの内心は喜びで溢れる。


(首輪もしていないし、野良猫だろうか。)


 もし飼い主が居るのなら帰してやらなければならない。そう思いつつも、プルプルと震える体に、何かを訴えかける様な瞳を見ていたら、自分でも知らぬ間に猫を抱えて馬車に乗っていたのであった。

誤字脱字などございましたら、ご報告いただけると助かります。

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