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勇者地獄  作者: 田中よしたろう
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電子賢者

 ……。

 ……………。

 ……………………モゾリ。


 それは闇の中で目を覚ました。否。常に覚醒状態にはあるが意識したというか。

 他者との関わりによって初めてそれはを示すのだ。


 そもそも狭間の世界に情報を飛ばせる者自体、久方ぶりなのだった。


 彼はかつて人だった。

 そして、世界を超越した。

 そして、世界に溶けた。


 彼を呼ぶ声に従って、右足が軍と引っ張られる。

 ゴムのように伸びきったそれはさらに張力の限界まで引っ張られ、伸びに伸びきった後、ぶちり。と小指の先ほどが引きちぎられとある世界の一つに収束していく。

 とはいっても本体の総量に変化は無い。わずかなコピーを作り、それを引き離したのだ。


 何度か瞬いたそれは、まぶたなど持たない眼で眼前の光を知覚した。


「それ見ろ、ナアカル時空に声をかけられぬ」


 本体から引き離されたそれは、かりそめの自我を構築し、覚醒したのだ。

 そこは巨大な門に似た装置が置かれている施設だった。


 もしこの場に章吾が居たのなら、穿世界門と同じ様な印象を受けただろう。

 肉片とも植物とも取れる姿でこの世界に現出した彼はウネウネと立ち上がった。


「これが、彼の者という奴ですか?」


「いや、その一部だよ。ほんの少し、小指の先ほどの力を召喚しただけだ」


 施設の中央には彼を見つめる二人の男が居た。片方は開襟シャツにジーンズのラフな格好で立っており、もう片方は革のパンツにジャケットをピシッと着込み、姿勢良く立っていた。


「グレート・ワンである彼の万分の一もない。賢者の本能に従って、〝彼の者〟に回帰するために世界を壊して回るただの化物さ」


 さしずめ〝賢者モンスター〟とでも言ったところか…と、開襟シャツの方の男は呟いた。


「はあ」


 革のジャケットを着た男の方が気のない返事を返す。彼は綺麗に綺麗に切り揃えられた黒髪を腰まで伸ばしている。


「だが、テロルを行うにはちょうどいい。物理的な手段では殺せない筈だからな。君のお相手を揺さぶるにはね」


「そうですか……」


 〝賢者モンスター〟と呼ばれたそれは二人に意識を向けた。


「なるほど。そのハイペルボリアの記憶を持つのなら、勝ち鬨を泣こう」


「…………さっぱりなにを言っているか分かんないんですが、こいつはこっちの言うことを聞いてくれるんですか?」


 革のジャケットの男が不安そうに聞いた。


「うちのスポンサー筋が昔、彼のオリジナルと契約を交わしてね。それが有効なうちは指示に従ってくれると思うよ……多分」


「団長、ホントに大丈夫なんですか?」


 団長と呼ばれた開襟シャツの男はまあまあ大丈夫、といった軽い感じで気にしていない。


「我々の命令に従ってもらえます?」


 革のジャケットの男が賢者モンスターに聞く。


「ウグム、ウッグムグ、グゲガンガの展望に期待が持てぬ」


 賢者モンスターは大きく頷いているようにも見える。


「あ……、なんとなく了解してくれたような雰囲気ですよ」


「そうだろう。そうだろう。じゃあ、君。彼を連れて横浜駅に行ってくれ。うちの情報部の話じゃ目標は今、そこにいるらしい。露払いは戦闘員にでもさせるといい」


「了解しました」


「久しぶりの再会だろう。楽しみじゃないかね?」


 団長はこの世の悪をすべて集めたようなおぞましい姿で笑いかけた。


「いえ、別に……あいつにはそこまでの感情を抱いていません」


 と呼ばれた革のジャケットの男は少し苦い表情をして施設を立ち去った。




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